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「あの女の子、汐里ちゃんにちょっと雰囲気似てたね」
閉店後、伊織がカウンターをクロスで拭きながら言った。
「そうですかね」
しれっと答えた樹だったが、店に入ってきた瞬間から内心そう思っていたのだった。
「『オレんち、泊まる?』だって。樹クンも言うの?」
にやにやしている伊織に樹はじとっとした目で答えた。
「オレたちは、清い交際ですから」
右眉毛をピクッと上げ、伊織はふぅ~んと面白そうだ。
「年齢的にも樹クンたちと似てたよね。今頃あの二人、距離が縮まってるのかな」
『ね、樹クン』と最後に付け足しながら嬉しそうに伊織が言ったが、樹はそれに対して表情を変えることはなかった。
ロッカーの中から着てきた服を取り出し、着替えて帰る準備をしながらも会話は続く。
「しおりんは、あんなあざとくないですよ。オレもあの彼氏みたいに打算的じゃないです」
「確かに。君は案外真面目だし、汐里ちゃんは純粋すぎて天然なところが汐里ちゃんらしくてイイよね」
「案外真面目って何なんッすか」
少しムッとして答える樹。
汐里の良いところは、伊織に言われなくとも自分が一番知っている。
そして、自分は汐里のことを大切にしたいのだ。
とは樹は口に出しはしなかったが、答える代わりに無言で視線を送りロッカーの鍵を閉めた。
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