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(しおりん)じゃあ今度、樹くんにもお弁当つくってあげるね!
「弁当、か」
作ってもらったところで、樹は朝から会社勤めをしているわけではない。
いつ食べれば良いんだろうかと考えた。
それにどちらかといえば、弁当より普通に料理を作って欲しい。
しかも樹の部屋のキッチンで料理をしているところが見たいのだ。
そして、一緒に食べたい。
そこまで考えて、樹はふと動きを止めた。
今までつき合った彼女は、部屋に来たがってもはぐらかしていた。
自分だけの空間に他人を入れるのが好きではないからだ。
なのにどういうわけか汐里に対してはそうは思わず、部屋に呼んで二人きりで一緒に過ごしたいと思っている自分がいる。
自分でも今までに無い心の動きにうろたえながらも、樹はスマホの操作を続けた。
『今度、オレんち来る?そんでもって、もし良かったら』
ここまで入力だけしてはみたものの。
送信するのをためらって樹は画面を見つめていた。
「ありえない……送れねぇわ」
はははと乾いた笑いを浮かべ、ふぅっとため息をつく。
送ったことのない文面。
もし、この言葉が届いてしまったら汐里はどう思うのだろう。
手を繋ぐことがやっとの関係で、いきなりこれはマズい気がする。
そんなつもりでなくとも、いや、そんなつもりであったとしても、むやみに警戒心を抱かせることになるのはどうだろう。
「あ――!!オレどうしたらいいんだろ」
クッションを抱きかかえ、思春期のように悩んでしまう。
いい年した男なのに情けないと思いながらしばらく考えあぐねていた樹だったが、指先をゆっくり動かしたあと思いきって送信ボタンを押した。
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