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忘れたい人とナポリタン2
朱梨と奈海は重田さんのお宅に向かって住宅街を並んで歩いていく。おかもちには一皿しか入っていないのに少し重く感じてきた。おかもちは金属でできているし、長い間持っていれば手も痛くなってくる。朱梨は料理を崩さないようにそっとおかもちを持ち換えた。
一方の奈海は手ぶらでつまらなそうだ。奈海に持たせれば良かった、と店を出て三十秒で朱梨は後悔した。
すると、奈海がおもむろに服のポケットから一枚の紙を出した。覗いてみると、その紙の上部には『ご予約』と書かれているのが見えた。
「それ、葉月くんのケーキの予約?」
朱梨は尋ねた。
「そう。忘れそうだったから持ってきた。出前のついでに受け取りに行こうと思ってさ」
奈海はそう言って予約票の控えを顔の前にひらひらさせた。
「奈海にしてはやるじゃない」
「馬鹿するな。うちにだってこれぐらいはできる」
そう言う奈海は得意気な顔をしていた。
さきほどの客前での態度を指摘しても良かったが、奈海の顔があまりにも上機嫌だったから、朱梨は話を変えることにした。
「ところで、どんなケーキにしたの? 奈海が予約しにいってくれたでしょ」
「ショートケーキだよ。やっぱり誕生日ケーキと言ったら、白いふわふわの生クリームに大きな苺かなって思ってさ」
「そうね。ベタが一番よね」
「そうだろ!」
朱梨の賛同に奈海はさらに機嫌が良くなった。ここまで気分が良さそうなのはケーキが待っているからかもしれないな、と朱梨は思った。親友は荒くて不良の雰囲気を残しているが、大のスイーツ好きだった。
「葉月くん、喜んでくれるといいわね」
「うん。そのためにも仕事ちゃちゃっと終わらせるぞ!」
奈海はぐんと腕を上に突き上げ、気合十分といった感じになる。それにつられるように、朱梨も足を速めた。
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