欠けた世界

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 今日も僕の1日が始まった。 午前6時に起きて、着替え、トイレ、歯磨き、髭剃り、食事を行う。 その後、黒い革製のビジネスバッグを左手に持ち、マンションの玄関扉をゆっくりと開けて会社へ向かう。 僕は商社に勤めて5年になる社会人だ。 満員電車で10分ほど揺られ、大勢の社会人が生み出す流れに押し流されるようにして、会社へ歩みを進める。 午前8時20分ごろに会社に着くと、デスクの周りを整理して苦いコーヒーを1杯飲む。 そして午前9時の朝礼を終えると、慌ただしい1日が幕を開ける。 取引先にあった仕入れ条件の選定。 商談資料の作成。 いくつかの企業への外回り。 … 今日も終わりの見えない地獄のような仕事をこなす。 午後7時、僕はようやく仕事が終えた。 会社を退社すると、近くのスーパーでビール1本と茹でられた枝豆を1パック買った。 そして駅へ向かい、帰宅ラッシュで込み合った電車に乗る。 自宅の最寄り駅で降りると、そそくさと改札を抜けて家路を辿る。 自分の住むマンションの部屋を開け「ただいま」と言うと、3つある部屋の中からリビング兼台所の部屋へ足を運ぶ。 部屋に入ると、照明をつけてスーツの上着を椅子に掛ける。 ネクタイを緩めながら台所へ向かい、石鹸で両手をきれいに洗う。 その後、ネクタイを洗濯籠へ投げ入れると、テレビを見ながらスーパーで買った枝豆とビールで晩酌を始める。 明日は休みか…何をしようか? あまり面白くない漫才を見ながら、次の日の予定を考える。 釣りに行こうか。 映画に行こうか。 家でゲームや読書をしようか。 … 何もしないで寝ていようか… 結局、僕は睡眠を優先しようと考えてしまう。 いつからだろうか、休日が空虚で変哲のない日になったのは。 僕は思い出を回顧する旅へ出た。
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