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3年前、東京タワーで見た夕焼けはきれいだったな。
2年前、富士山へ登山したこともあったっけ。
昨年、京都に食べ歩きの旅に行ったことも楽しかったな。
それ以外にも、近場の公園で散歩に行き、ベンチで読書をする時間も良かった。他にも、ホラー映画やアクション映画を見に映画館にもよく行ったっけ、
別に好きではないジャンルもたくさん見たな。
あと・・・
あ、あれも楽しかったな。
「ねぇ、東京で観覧車に乗って、夕焼けを見たの覚えている?」
僕は質問した。
誰も答える人はいないのに、なぜか言葉が零れた。
あれ、僕は誰に聞くつもりだったんだ?
僕は混乱した。
何かわからないが、おかしいことに気づいた。
その理由を考えようともがくが思い出せない。
記憶の一部が黒い靄で覆い隠されたようになっている。
なんだ、なにを忘れている。
思い出すんだ。今、この疑問に気づいた、この瞬間に。
疑問が消えてなくなる前に…
「目を覚まして」
その時、声が聞こえた。
若い女性の声だ。
誰だかわからないが、声色から必死さが伝わってくる。
それと同時に懐かしさを覚えた。
何か思い出しそうだ。
あと少し、ほんの少しで…
ズキンズキンと頭が痛む。
考えることを放棄したくなるほど、痛みは増していく。
けれど、僕は考え続けた。
誰かの必死な呼びかけが続いていたから。
諦めてはいけない。
彼女の問いかけに答えるために。
思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ。
「健治君(けんじ)!起きて!」
その呼びかけと同時に、僕はすべてを思い出した。
この世界に居なかった、彼女のことを。
僕の恋人である、春香(はるか)のことを…
記憶が戻ると同時に、僕のいる世界がガラスできていたかのように崩れ落ちていく。
僕はその世界で叫んだ。
「今から会いに行くよ!」
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