欠けた世界

4/4
前へ
/4ページ
次へ
 僕たちは小さな個室から東京の街を眺めていた。 周りに広がる東京の夜景は、大規模なイルミネーションのようで綺麗だ。 横に座っていた彼女が言う。 「観覧車なんて久しぶりだね。あなたが交通事故にあって以来よね」 「うん、そうだよ。もう一度乗りたかったんだ。君と」 彼女は照れくさそうに両手をもじもじしながら、頬を赤らめる。 その表情を見て、僕は意を決した。 「春香さん!僕と結婚してください!」 素直な言葉と同時に、黒いリングケースを開けて指輪を見せる。 心臓が鼓動を早める。 静寂が2人を包み込む。 数秒後、彼女が僕に言った。 「こちらこそよろしくお願いします!」 この日、僕たちは夫婦になった。 僕が生死の境で彷徨っていた世界で暮らした日々。その最後となる特別な1日から、僕の愛おしい日常は再スタートを切った。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加