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狭いワンルーム。
座卓とベッドが部屋の大半を占拠している。
座布団を出され、座ってね、と示される。その隣に川辺さんが胡座をかく。座る場所もあまりないため、川辺さんとの距離が近い。
「ごめんね、狭くて」
「いえ」
むしろラッキーなんて思ってます、とは言えないけど。
「あの。ケーキいつ食べます?」
「そうだよね、ケーキ。今から? それとも夕飯食べてからがいい?」
夕飯のこと何も考えてなかった。座卓に置いてあるデジタル時計はもうすぐ18時になる。
「川辺さんはどうする予定でした?」
「あ、うん、俺ね。俺はね、何も考えてなかったんだけどさ……。ちょっと待ってくれる?」
「はい」
頷くと川辺さんは立ち上がり申し訳程度に備え付けられた流し台に向かう。開き戸をあけ、中に手を入れ、何かを出してきた。それを座卓に置く。
「これって」
「うん。ワイン。結城ちゃん好きでしょ。いつか一緒に飲みたいなって思ったり、結城ちゃんにあげたいなって思って買ったんだけど。買ったはいいけど渡せなくてさ。せっかくだから飲まない?」
川辺さんは赤と白を持って首を傾げる。
「飲みます」
「ほんと? うん、飲もう飲もう!」
「ワイングラスあります?」
「え……」
川辺さんの目が点になり動きが止まる。
それだけでワイングラスがないことが分かる。
「そうだよな、ワイン飲むならグラスいるじゃん? 俺ん家には麦茶飲むグラスしかないや、どうしよ……」
「あり得ない〜」
「ごめん。今から買いに行こっか?」
「外寒いし、もう外出たくないな〜」
「結城ちゃん……」
「もう、しょうがないですね。家にあるやつでのみましょうよ! おつまみになるものも何かありますか? 冷蔵庫のもの使って良ければ何か作りますし」
「冷蔵庫の中? ごめん、何もないと思う」
「いつも何食べてるんです?」
「コンビニ弁当。あ、カップラーメンなら戸棚にあるよ!」
「え〜、やだ〜」
「やだって」
「だって今日クリスマスイブですよ?」
「じゃあ出前取る? ピザとか!」
「しょうがないですね、いいですよ」
しかしピザを注文する人が多いようで早くて3時間後と言われ、ピザを諦める。
「……コンビニ行ってみようか?」
「……そうしましょうか」
しぶしぶ立ち上がりコートを羽織る。外に出ると風が一層冷たくなっていて肩が上がる。
徒歩5分のコンビニでチキンとサラダと生ハムとチーズ、あとは適当におつまみを川辺さんが買ってくれた。
コンビニを出ると白い粉が落ちている。
「雪だ」
「さっむ。こんな中、公園でケーキ食べたら確実に風邪ひくじゃんね?」
川辺さんの言葉を想像して身震いする。手を擦り合わせていると川辺さんが私の手を掴んだ。
「冷た!」
「川辺さんの手、温かい。うわ〜羨ましい」
「貸してあげるから、カイロ代わりに持ってなよ」
「はい!」
川辺さんはきっと何も考えてない。だけどクリスマスイブに好きな人と手を繋げるなんて、なんて幸せなことだろう。
別に食べる物も飲む物もなくていいのだ。
ただ川辺さんと同じ時間を一緒に過ごせるなら、なんだっていい。
隣に川辺さんさえいれば。
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