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普通のコップで飲むワインは楽しい味がした。
最初にチキンと一緒に赤をあけ、白と一緒にハムやチーズ、おつまみをいただく。空腹がぼちぼち満たされた所でケーキを出した。
「もしかして手作り?」
「そうですよ〜、朝から頑張って作りました〜」
「結城ちゃんのケーキは初めてだ! クッキー美味しいし、ケーキも絶対美味しいじゃん!」
「へへへ。川辺さん、フォークちょーだい?」
「うん。待ってね。包丁もいる? 切り分けようか?」
「お願いしまーす」
「結城ちゃんちょっと酔ってる?」
「酔ってませんよ〜」
酔ってない。楽しいだけ。だって意識ははっきりしてるもの。
「酔っぱらいは酔ってないって言うんだって」
「ひどい〜。酔ってないのに〜」
川辺さんがケーキを4等分にして、1カットをお皿にのせてくれる。
「サンタさん乗ってるのは川辺さんが食べてくださいね!」
「これ? 俺が食べるの?」
「そーですよ〜。そのために買ったんですから〜。ちゃんと食べてくださいね」
川辺さんがフォークにのせた大きなひと口をぱくっと食べる。
「うまい! すげー。お店のみたい。クリームがあんまり甘くなくて俺好きだな」
好き、のひと言に鼓動が跳ねる。
「結城ちゃんはケーキ用意してくれたのに、俺なんにも用意してねえや。ごめんね」
そんなことないです、と視線で訴える。
「こんなグダグダなクリスマス初めてだったけど、だからこそおかしくて楽しくて……、私今日のこと絶対忘れません。私にとっては川辺さんと過ごせた時間が何よりのプレゼントなんです」
一緒に過ごしてくれてありがとう。川辺さんと共にイブを過ごせてとても楽しかった。
そしてやっぱり好きだな〜と思う。
「そんな風に考えれる結城ちゃんって本当に素敵だと思う。……ほんとグダグダで悪かったね。ワイン用意してグラスないとか」
川辺さんは白ワインが少し残るコップを揺らす。
「ケーキのお礼に何かプレゼントさせてよ。結城ちゃんは何か欲しいものない?」
「何でもいいんですか?」
「何でもいいよ」
ジリジリと寄ってみる。
「結城ちゃん?」
「川辺さん」
「ん?」
「川辺さん!」
「はい?」
「だから欲しいもの!」
「え?」
「私がすっごく欲しいものは川辺さんっ!!」
川辺さんが瞬きする。自分の耳が信じられないようだ。
「結城ちゃん酔ってる?」
「クリスマスプレゼント……川辺さんの彼女になりたい。でも川辺さんの中にはまだあの人がいるの分かってますから。だから吹っ切れたら考えてください」
「結城ちゃんは吹っ切れたの?」
「結構すぐに。だって私、目の前にいる人をすぐ好きになるから」
川辺さんの瞳に私が映っている。他の女なんて見ず、私だけ見て欲しい。
「結城ちゃん……」
驚いていた川辺さんの瞳に強い意思が宿る。
「……俺も。俺もさ、いつの間にか想いを寄せる相手が変わってて。俺の隣でいつも頑張ってる子が可愛くて仕方なくて」
――ねえ、それって。
「俺が今好きなのは」
心臓がうるさい。
「一緒に飲みに行きたいって思う子は一人で」
手にぎゅっと力が入る。
「俺は結城ちゃんが好き。俺の彼女になってください」
嬉しさに思わず涙がこぼれる。
私はきちんと返事したいのに、声が出なくて頭を縦に振ることしか出来ない。
そんな私を川辺さんは抱き締める。
「俺、ずっと気持ちを抑えてて。でも気付けばずっと結城ちゃんのことばかり考えててさ。今日も結城ちゃん特別可愛くてほんと理性抑えるの大変だったんだからね」
少しでも可愛いと思ってもらいたくて服もメイクも頑張った甲斐があった。
「下の名前で呼んでいい?」
肯けば、確認するように麗奈と耳元で囁かれる。川辺さんの吐息が耳朶を掠めた。
「麗奈」
好きな人の唇にのるだけで自分の名前が特別になったよう。
「麗奈。好きだよ」
川辺さんの腕の力が一層強まる。
「わ、わたしも、好きです」
震える唇で精一杯の言葉を紡ぐ。
川辺さんが腕の力を緩めて私の顔を見る。涙に濡れる頬を指で拭うと川辺さんは幸せそうに微笑んだ。
そして顔を傾けながら近付いてくる。それが何か分かった私はそっと目を閉じた。
触れるだけのキスなのに、幸せがあふれる。
「イブのプレゼントはこれで許して? その代わり、明日はデートしない?」
ムードも何もない狭いワンルームに届いた最高のクリスマスプレゼント。こんな嬉しい気持ちであふれたプレゼントを私は一生忘れない。
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