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「お姉様って本当に魔法がお下手なのね」
いつも自信満々な妹が笑いながらそう言うのがキツかった。
あの頃のことを思い出すと、心が真っ暗になって動けなくなりそうになる。
「ダメ。せっかくあの世界から抜け出したんだから」
私は頬を軽く叩くと寝室にある絵の具とキャンバスを持って外に出た。
さあ。今日は、何を描こう。
それは、私が一番楽しくて得意なことだった。魔法がダメダメでも、絵を描いている時だけは嫌な事を忘れられた。
今日は花を描こうか? それとも、木々と小鳥?
ドアを開けると、それが目に入ってきた。
私は息を呑んだ。
そこには、綺麗な虹が架かっていた。
雲ひとつない青空、美しい虹に、地上には赤茶色の紅葉の絨毯。
これを描きたい!
私は洋服が汚れるのも構わず地面に座ると絵を描き始めた。
虹が出てるのはどのくらいの時間だろう。それまでに下書きは間に合うのかしら。
焦りつつも、私の心はワクワクしていた。さっきまで心の中は雨が降っていたのに、いまや文字通り心には虹が架かっていた。
「アリア。昼ご飯ー!」
ケッコーの叫び声で我に返った。
今何時?
虹はとっくに消えていて、太陽は西に傾き始めていた。
「ごめん! 今行くわ!」
私は鶏たちの元へと走った。
「絵を描くのは楽しかったかい?」
コッコはご飯を食べつつ尋ねた。
「ええ。自分の手で絵を描くのってとっても面白いの!」
ケッコーはフッと笑った。
「でも、私たちのご飯を忘れるのは困るわ」
「本当にごめんなさい」
「まあいいけど」
そう言って2匹は美味しそうにご飯を食べている。
グゥー。
私はお腹に手を当てた。私もご飯を食べなきゃ。でもその前に。私は自分で耕した畑へと向かう。そこには大豆、野菜、ハーブが植えてある。ジョウロに水を入れて、私は指を振った。
ジョウロは私の手を離れて宙に浮くと、お天気雨の様に畑に水を降らせた。これだけは得意の魔法と言ってもよかった。それを何度か繰り返すと、植物たちも喜んでいるように思えた。
家に戻って、昨日作っておいた自家製の胡桃パンを食べる。とにかく、絵の続きを描きたかった。
パンを食べ終えてまたすぐに絵の道具を持ってさっきの場所へと行く。虹は消えてしまったけど、覚えているうちに描きたかった。
気づくと辺りは夕暮れ、星々が少しだけ自己主張をしていることに気づいた。
今日はここまで。
絵の道具を戻すと、私はキッチンに立った。
今日は寒いからスープにしよう。
庭で採れた野菜とハーブ、塩漬けにしたお肉、ミルクを鍋に入れる。
決して高級食材を使っていない、素朴なシチューだけど、じんわりと心に染み渡るこの味が大好きだ。
コッコとケッコーに晩ご飯をあげて食後食器を洗っていると、欠伸が出た。もうそろそろ寝よう。
ベッドに横になって目を瞑る。思い出すのは、今日見た虹の風景。
絶対に描く。明日が楽しみだな。
そう思いながら眠りにつくことは、とても幸福だと思えた。
そんな毎日を繰り返して2週間。絵は完成した。我ながらいい出来だと思う。
その絵は最初にコッコとケッコーに見せた。コッコは興味なさそうに。ケッコーは「うん、上手く描けてるね」と言ってくれた。私は次に通りすがりの小鳥たちに絵を見せた。
「アリアさん、絵を描くの上手いのね」
「この前の虹の風景、上手じゃないの」
小鳥達は口々に褒めてくれた。
家の前を通りかかったリス達も、ネズミ達も。
そして私はその絵を寝室に飾った。
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