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リーと名付けた土人形に紙と、絵を持たせる。
「いい、リー。この森を抜けて、街の画商の所へ行くのよ?」
太陽が真上にある頃、リーは何も言わずに歩き出して森の先へと消えた。
うまく行くかしら。そんなことを思いながら、私はリーの帰りを待った。今日は一段と、家事に力が入らない。手動で働いているのに、花瓶はひっくり返すし、地面に落とした絵の具を踏んで絵の具が辺りに散らばったり、外で描く絵に集中できなかったり。そんな様子を見てコッコはケラケラと笑った。
「アリアさん、もうこればっかりは『後は野となれ山となれ』だよ。待つしかない」
「そ、そうね」
やがて太陽が寝そべり、星達が囁き合う頃。
「アリア、帰ってきたよ」
外で鳴くコッコの声で、私は家の外に出た。
「おかえりなさい」
リーは、ゆっくりと歩いて私の前で立ち止まった。
「絵は? どうなったの?」
辺りが薄暗い中、リーは右手に持っていた紙を差し出した。私は読もうとしたけれど暗くてよく読めない。そしてリーは左手から巾着を取り出した。
えっ、と思う間もなくリーは足元から崩れ去り、只の土に戻ってしまった。
リーの土を家の横に移動させて、私は家に戻ってランプに近寄った。
アリア様
今回このような絵をお売りいただきありがとうございます。私個人、この絵を気に入りぜひ販売したいと思いました。つきましては、代理人様に銀貨1枚をお渡しいたします。また別の作品があればぜひ当店にお売りください。
ノア
私はびっくりしたのと、嬉しいのと感激で飛び上がりたくなった。すぐさま外に出てコッコ達に報告する。
「コッコ、ケッコー。絵が、絵が売れたの! あの絵をいいと思ってくれた人がいたのよ!」
「やるじゃないか、アリアさん」
ケッコーは羽をばたつかせた。
「ふん、よかったわね」
コッコはすまして言う。
「アリアさんの絵が売れたの?」
野ネズミ達が3匹、わらわらとやってきた。
「へぇー。良かったね」
木の枝に止まったミミズクが歌うように言った。
「うん、嬉しい。初めて認められた気分!」
宙に浮かぶ魔法も、医療魔法も、戦闘魔法も、そのほかの魔法も。全部ダメダメだった。いつも一族の落ちこぼれと冷ややかな目で見られていた。でも、この世にたった1人でも、あの絵に価値があるねと言ってくれる人がいた。
それだけで、どこか救われた気持ちになった。
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