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3日後、リーを作り直して今度は前に描いた星空の絵と前回と同じ内容のメモを手渡す。
前よりも丈夫に作られたリーは、夕方には帰ってきて、銀貨を1枚手渡して崩れた。
その4日後には、この家から見える風景画をリーに渡した。その日は風が強くてリーに被せたスカーフが飛んでいってしまったみたいだけれど、銀貨1枚を持って帰ってきてくれた。
そんな日々が嬉しくて、鼻歌を歌いながら庭に洗濯物を干していた午後のことだった。真っ白なシーツを干す視界の端になにか動くものがいる事に気づいた。
よく目を凝らすと、ベージュ色の何かがこちらへ向かってきている。
「アリアー。お客さん、お客さん。人間がこっちに向かってきているよ」
向こう側から飛んできた1羽の小鳥がそう言いながら頭上を飛び回る。
うちにお客様? それも人間?
固まっていると、私の視界にもようやくお客様が見えてきた。
ベージュのコートに身を包んだ男性。それが我が家に来た初めてのお客様だった。
「こんにちは。貴女がアリア・ルーニーさんですか?」
こちらに気づくと、男性が声をかけた。
「は、はい……」
男性は右手を挙げた。黒い髪が陽の光を受けてガラス細工のように艶々と輝き、青い瞳は深海のように美しかった。
そして、私の前に立つと、会釈をした。
「初めてまして。僕の名前はノア。いつも貴女がお売りになっている画商に勤めている者です」
私はいつもリーが持って帰ってきている手紙を思い出した。いつも私の絵を買ってくれている画商の名前と同じだった。
「貴方が。いつも、ありがとうございます」
私はスカートの裾を持って左脚をかるく曲げた。
「こ、これは丁寧にどうも」
そして、私達の会話は途切れた。
ノアさんは私をみているだけだし、私もなんて言ったらいいか分からなかった。手紙では繋がっていたとはいえ、おしゃべりが得意でない私は言葉が思い浮かばない。
「あの……。うちに何か?」
ハッとして、ノアさんはカバンを開けてスカーフを取り出した。
それはリーに被せていた私のスカーフだった。
「それは」
ノアさんは、ふわりと笑った。
「この前、妹さんが落としたものです。声をかけたけれど気づかなかったみたいで」
綺麗に畳まれたスカーフを受け取ると私は俯いた。
「ありがとうございます」
「今日は妹さんは?」
「えっと……。あの子は近所のお使いの子です。私は街が苦手なので代わりに行ってもらっています」
なるほど、とノアさんは頷いた。ああ、絶対変な人だと思われる。と私は憂鬱になった。きっと、人嫌いの偏屈者と思われる。いや、間違ってはいないのだけれど……。
「いやー。良いですね! そんな生活僕も憧れますよ」
えっ、と私はノアさんを見た。その顔は上辺などではなく、目が輝いていて本心のように感じた。
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