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彼が外国語で電話をした後、再びニッコリした顔をして、「すぐ来るって」と言った。
「あの、名前はなんですか? 俺は翔也って言います」
「ショウヤ。私はドムだ。みんなからそう呼ばれている」
「ドム。カッコいいですね」
「そうかい、ありがとう」
五分ほどして、高架下付近に黒いワンボックスカーが到着した。運転手の席から、ドムに似た男性が降りてくる。ドムは彼と外国語で会話をした後、俺に向かって「乗って」と言った。俺は迷うことなく車に乗ろうとした。
「おい、何やってんだ!」
しかし、近くで突然の怒鳴り声がした。俺も、ドムも、ドムに似た男性も、みんな一瞬動きが止まった。そして一斉に声の主を見た。するとそこに立っていたのは、一人の警官だった。
「さっき子供を誘拐しようとしているって、通報があったんだ」
誘拐?
「逃げろ!」
ドムがなぜかそんなことを言った。今から思えば、それは俺に放った言葉ではない。自分たちに向けて放った言葉だった。だけど当時の俺は素直だった。そしてドムがやさしくてたくましい、まるでヒーローみたいな存在の見えてしまっていた。
警官に捕まってはいけない。
俺はドムに対して申し訳ない気持ちを抱きながら、全速力で景観とは逆方向に走った。
背方向から「おい、待て!」という声が聞こえたが、俺は振り返ることもなくとにかく駆けた。毎日走っているだけあって、かなり長い間走ることができた。土手を越え、住宅街を駆け抜けて、よく友達と遊んでいる公園までたどり着いた。息を整えるために俺は立ち止まって何度か深呼吸をした。ひたいからは汗が流れて、それが口に入ってしょっぱかった。それから公園内にある水飲み場で思い切り水を飲み、木陰に隠れて足を休ませた。
ドム、おまわりさんに捕まっていないかな?
ドムは自らを犠牲にしてまで、俺を救ってくれた。またどこかで会える。絶対に会える。俺はそう信じて、ポケット上から中にあるカードをさすった。
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