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6
おばあちゃんは俺を家の中に入れてくれた。中にはいくつかのテーブルと数人が座れるカウンターがあった。おばあちゃん曰く、ここは個人で経営している酒場だった。
「ごめんね、オレンジジュースしかないけど」
「ありがとうございます」
俺はカウンター席に座って、オレンジジュースを飲んだ。渇ききっていた喉を柑橘が攻めに攻め、空っぽになった胃袋を刺激した。それでも糖分が体内に入ったことで、俺は幾分か元気になった。
「美味しいです」
「それはよかった」
それから再び、おばあちゃんは「どうしたの?」と尋ねてきた。僕は一瞬嘘をつこうか迷った。だけどオレンジジュースをくれた優しいおばあちゃんに嘘をつくことはできなかった。それに、もう観念するしかないと腹を括っている自分もいた。
「実は今日、音楽の授業があったんですけど、家にリコーダーを忘れちゃって。でも、忘れ物をすると酷く怒る先生がいて。廊下に立たせたり、定規で殴ってきたり知るんです」
「つまり、先生が怖くて逃げてきたのね」
「はい。怖かったです。すごく、怖かった」
俺は溢れる涙を止めることができなかった。そんな俺を、おばあちゃんは小さくすべすべした手で撫でてくれた。
「怖いのは嫌だもんね。逃げたくなっちゃうよね」
おばあちゃんは俺を肯定してくれた。忘れ物をした俺が悪いのに、そんなことは気にしなくていいと言わんばかりに。
「でもみんな、あなたが急にいなくなって心配していると思うわ。もしかしたら、みんなで探しているかもしれない」
みんなで探している。俺のことを。
「学校に戻りましょう。私も一緒に行くから」
おばあちゃんは俺に対して厳しい言葉を投げかけてこなかった。むしろ慈愛を込めて俺を慰めてくれた。そして小学生の俺は純粋だったから、おばあちゃんの温かさに勝てなかった。
「はい。戻ります」
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