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これはのちに聞いた話だが、俺にカードをくれたドムは、児童売買を専門とする組織のボスだったらしい。捕まったドムは「そんな少年知らない」と容疑を否認したが、俺の持っていたカードにドムの指紋が付いていたことが証拠となったらしい。
また、俺たち生徒を恐怖に陥れた近藤先生の体罰問題が表面化した。証言者の中には俺にオレンジジュースをくれたおばあちゃんもいた。結局、近藤先生はその年の三月で異動になり、それからは生徒に対して過度な恐怖を与える先生がいなくなった。
あの日以来、俺は毎日忘れ物がないかチェックをするようにしている。それは義務教育が終わった後も続いている。もちろん、社会人になった今もだ。あの日の思い出は、決して忘れることができない大切な記憶になっている。これからだって忘却することはないだろう。
「オレンジジュースでも飲むか」
俺は自動販売機で缶に入ったオレンジジュースを買い、一気に半分ほど飲み干した。柑橘の香りが鼻に充満して、おそらく生きていないであろうおばあちゃんに撫でてもらった感触を思い出した。
「あの温かさには敵わねえや」
俺は缶をゴミ箱に捨て、靴紐を締め直して再び歩き始めた。
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