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 木枯らしが吹く頃、街を歩く小学生を見ると思い出すことがある。多分、俺の中でもっとも「ピンチ」だった出来事かもしれない。今は立派に靴職人をしているが、あの一日の間に俺の選択肢を誤っていれば、きっとこの場所で記憶を呼び起こすこともないだろう。下手すりゃ、本当に死んでいたんじゃないかって思う。  それにしても、小学生というのは子供だ。何もかもが未熟で、発展途上。それでいて、大人が怖い。特に怒っている大人が怖い。まあ、それは今でも変わらないかもしれないが。  小さい頃、俺はとにかく怒られたくなかった。不快な塊を飲み込んで吐きたくなる気持ち。それが怒られることで心の中に蔓延する感覚が嫌いだった。だから品性がある真面目な生徒でいた。礼儀正しく、気遣いができて、もちろん勉強も頑張った。褒められたいからじゃない。怒られたくないからだ。  だけど人間、誰しも過ちを犯す。ミスをする。失敗しない人間なんて一人もいない。もちろん、俺だって例外じゃなかった。  そういえばあの日、空は酷く曇っていた。どこからか雨の匂いがして、長靴を履いた猫が散歩していそうな天気だった。そしてあの日は、俺が嫌いな音楽の授業があった。正確に言えば、俺は音楽の先生が嫌いだった。おそらく五十代ほどの女性で、ふくよかで、髪の毛はグルグルパーマ、しかも紫色だった。なぜかいつも豹柄の服を着て、鋭い目つきで生徒を脅かしていた。そして見かけ通り、怒ると鬼になった。廊下に立たされる生徒もいたし、定規で頭を叩かれる生徒もいた。ケツを引っ叩かれる生徒もいた。今じゃ考えられないほど暴力的だった先生の名前は、たしか近藤だった。  今でも覚えている。いや、どうしても忘れることができないのだ。あの日、俺は音楽の授業で使うはずのリコーダーを家に忘れてしまった。そして、「殺される」と思った俺は、咄嗟に学校から逃げたのだ。  
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