忘れないための忘れもの

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となりの席の河中くんはいいことがあった日に必ず忘れものをします。 算数のテストでまん点を取った日、河中くんは丸がたくさんついたテストの紙を机の上に忘れて帰りました。 他の小学校と一緒にやる連合運動会があった日、ときょう走で一ばんになった河中くんは運動靴を忘れて帰りました。 「河中くんはどうしていつも忘れ物をするの?」 火の用心のポスターが金賞に選ばれた日、河中くんがそのポスターを置いて帰ろうとしたから私はそう話しかけたのです。河中くんとは別にお友達じゃなかったけど、勇気を出して話しかけました。こうも毎回忘れものがあると気になって気になってしょうがなかったのです。 「……忘れないため。忘れないために忘れるの」 俯きながら呟いた河中くんの言葉はちゃんと耳にとどいたのに意味はまったくわかりませんでした。 忘れないために忘れ物をするの? そう聞き返そうと口を開けた瞬間、クラスの男子がこっちを向いて指をさしました。 「ケイゴなに女子と話してんだよー」「なに河中若月のこと好きなのー!?」「えーまじ!ビックニュースじゃん!」 河中くんの後ろからイジワルな声が聞こえて、私はあつくなるほっぺを抑えながらその場を立ち去りました。河中くんの言葉に聞き返すことはせずに。 次の日、河中くんは自分の名前が書いた名札を忘れて帰りました。 その次の日、河中くんは自さつしました。
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