最終話 ヨシュカ

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「少し疲れたから仕事はやめにして、夕食まで君と庭園でも歩こうかな」  ペン立てに羽ペンを置いて、席を立つ。僕の誕生日まで十日、叙爵式まで十五日だ。一応今急がなければならない仕事は全て終えている。空いた時間に書き留めたものもある。毎日の礼拝は欠かしていないのだから、今日くらい休んでも罰は当たらないだろう。  執務室をシェーンと共に出て、シェーンの部屋に本を置いてから中庭に向かった。  美しく剪定された木々、色とりどりの花々。かつては苛立ちを感じるばかりだったが、今はそうではない。シェーンは僕と違って花や木や、小鳥や小動物が好きだった。だから、彼の好ましいと思うものを好ましく思うようになった。  ふと花壇に咲いていた小さな青い花が目に入る。僕はその花を数本手折って、シェーンに手渡した。不思議そうな顔で僕を見上げる。 「スターチス……君にこの花を贈るよ」  花をじっと見詰めた後、「ありがとう」と呟き、わずかに口角を上がるのが分かった。心臓が締め付けられるように苦しくなる。シェーンが喜んでいるのを見て嬉しいはずなのに、辛かった。  しばらく中庭の花や木、鳥の名前をシェーンに教えながら散策した。日が暮れる前に夕食を取って、それぞれの部屋に戻る。  僕はシャツと下穿きの格好でベッド脇の椅子に座って、窓の外を見詰めた。数十の赤い灯が中庭を埋め尽くしている。  ――とうとう、この時が来た。
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