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午前五時――、
まだ夜が明けぬ暗闇、眠たい目を擦りながら職場へと向かう。日を浴びる事の無い工場勤務、クタクタになり帰宅するのは決まって同じ暗闇の午後二十時。
そう、あの日も疲れていた。
仕事のストレスを発散させるため口にした酒。昔から強い方ではない。僅かな飲酒で身体全身を赤く染め、立ち上がると共にヨロヨロと足を取られる。
午後二十一時、大阪から京都の高校へと通う娘が帰宅したのは丁度その頃だった。
ただいまの言葉もなく様子のおかしいその姿、蓄積疲労のせいか酔いがまわり頭痛を微かに感じ始めた頃、妻との会話が耳に届く。
「ないの! 大切な書類が――」
「どこに忘れたの?」
「乗り継いだ時、電車に――」
断片的な言葉を繋ぎ合わせ、ようやく緊迫し落胆した表情の娘の姿を理解した。
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