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「…あ、海棠」
触れはじめていくらもしないうちに、ちょっと舌足らずに呼ばれて、もしや甘えてくれるのか、と海棠の心は踊った。
「うん?」
「やっぱりやだ。寒い。上着取って」
糖度ゼロの素の声で言われて手が止まる。ぶっ飛ばしたいくらい空気を読まないのも相変わらずだ。くそ、と内心毒づき、さっき脱がせたばかりのジャケットを引き寄せてぞんざいに投げつけたら、何か固いものが比嘉の額あたりに当たる音がした。
「いったぁ」
「悪い…」
ポケットに何か入っていたようだ。上体を起こした比嘉がジャケットのポケットをまさぐり、取り出した小箱を投げつけてくる。それから涙目で額をさすり出した。
「海棠なんかだいきらい。角当たった。めちゃくちゃ痛い…」
「悪かった」
謝りながら、海棠はまた驚いていた。受け取めた小箱は、上品なラッピングの…どこからどう見てもプレゼントだ。
(まさか誕生日プレゼント、か…?)
「これは俺にか?」
「そうなんじゃないの」
「何が入ってるんだ?」
「開けてみれば」
と、まだ痛そうに額を押さえている比嘉は素っ気ない。
海棠はベッドに正座して、手の中にすっぽり収まった小箱を見つめた。すでに胸がいっぱいになるくらい喜んでしまったから、中身を知るのがおそろしい気がする。海棠に対する比嘉の日頃の素っ気なさが身に染みているだけに、尚更だ。
(なにが入ってても嬉しいんだが、俺の予想を飛び越えたものが出てきそうだから心の準備はいるだろう)
「…なんで固まってるの」
「いや、…開けるのがもったいなくて」
「もう、貸して」
比嘉が海棠の手から小箱を取り上げた。眠たいせいか、かなりおぼつかない手つきで包みを破ろうとする。
「おい待て。比嘉、破くな。自分で開けるから破いてしまうのはやめてくれ」
…そんなことされたら泣ける。俺の心がビリビリに破ける気がする。
相当情けない顔をしてしまったのか、比嘉は完全に呆れ顔だ。
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