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「言っておくけど、そんなにもったいぶるようなものじゃないからね」
「分かってる。期待はしていない」
つい言い切ってしまい、海棠はハッと顔を上げた。比嘉の顔には傷ついたような表情は浮かんでいない。ただすっと包みから手を引いて、ふいと横を向いてしまった。片膝を立てて、あきらかにむくれている。海棠は慎重に包みを開けた。
比嘉が贈ってくれたのは、タイピンだった。シルバーのシンプルな意匠だが、花模様が繊細に彫り込まれている。
「…もしかして、これは海棠の花か?」
「君に薔薇なんか贈る趣味はないよ」
おそらくこれはオーダーメイドだ。海棠の花はメジャーではない。その海棠の花を緻密に彫り込んだタイピンなど規格品ではあり得ない。
…薔薇なんか、ね。
くっと肩を揺らして、海棠はゆるんでしまった口元に拳をあてた。
「比嘉、おまえもしかして…さっき妬いてたのか」
仕事の関係者から受け取って車の後部座席に放置してあった花束のことを思い出して聞いてみたら、比嘉の横顔が不愉快そうに顰められた。
「知らない。そういうの分かんないって何度も言ってるでしょ」
「ああ、いいよ。おまえが嫉妬してくれたって、俺が勝手にそう思っておく」
比嘉がぱっと顔を上げた。
「やめてよ、僕がヤキモチ焼きみたいに聞こえる」
「違うのか?」
「違うってば」
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