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海棠は比嘉の背中に軽く手を添えて、大学のキャンパスを横切った。正門の横手にある来客用駐車場に行き着くまでに、長身で均整のとれた体躯にスーツをまとった、いかにも真っ当ではない雰囲気を醸し出している海棠は学生たちの注目を集めたが、いつものことだ。男性にしては細身で長めの髪を横で束ねた比嘉をエスコートしていると、余計に目立つらしい。比嘉を迎えに来始めた当初は、大学の事務局に「ヤクザみたいな男が女子学生を攫っていった」と通報されたこともある。海棠の仕事が裏稼業なのは間違いないから、まったくの的外れでもない。
駐車場に着いたあたりで、「いちいち迎えに来なくていいのに」と、細い声がした。それでも「来るな」とは言わないのだから、送迎をやめるつもりはない。比嘉の横髪を軽く撫でつけ、肩を抱いて車の前まで連れていく。
「おまえが自発的に帰宅するなら、そもそも迎えはいらないんだがな」と諦め混じりに言って、海棠は助手席のドアを開けた。比嘉の横顔に不機嫌な気配が増したが、半ば強引に押し込んだ。
「往生際が悪いぞ。乗れ」
「…もう」
海棠は運転席側にまわり、自分も乗り込んだ。車内に充満した花の香りが強く香って、一瞬眉をひそめる。日中に取引先の女性役員から受け取った花束を後部座席に放置したまま忘れていた。同行していた部下に渡すか、比嘉を迎えに行く途中で、大学の事務局にでも置いてくるんだった。車内を閉め切っていたせいで、芳香剤より香りがきつくてむせそうだ。鼻をこすった比嘉が後部座席を振り返って薔薇の花束を見つけると、心底煩わしそうに言った。
「くさい」
遠慮なしの物言いには苦笑するほかない。
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