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そう言って、永井は受話器を置いた。
その様子を見ていた、副島が呟いた。
「うちで、重版出来なんて、無理に決まってるのに……」
そこまで、黙って聞いていた、優介も紀里谷に向かって言った。
「そうだよな、うちが重版出来の本なんか出したことないもんな。社長ってさあ、見たことないんだけど、この前、買収されて大手出版社の『キングス』の傘下に入ったってホントか?」
訊かれた紀里谷も、曖昧に答えた。
「ああ……そうらしいな。オレも詳しいことは知らないんだ」
自分の会社が買収されたかどうかなんて大事なことを、社員が知らない程に、マリモ出版はのんびりした会社だった。
「はい! じゃあ、編集会議、始めるぞ~」
副島の言葉で、その話題は打ち切りになった。
マリモ出版社の正規の退社時間は五時半だ。
しかし、優介は、まともに、その時間に退社したことはなかった。
だが、今日は、別だ。
生まれて、初めてのデートなのだ。
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