【第一章:溢れてしまう】

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 それがすべての始まりだった。  光は香や、会う機会があれば謙太郎とも、会話の中でさりげなくサッカーチームの話題を出すようにした。  そして「誘われて仕方なく」という体を取りつつも、試合の応援や練習時の手伝いにまで行くようになったのだ。  考え過ぎかもしれないが、あまりにも頻繁過ぎて疑念を抱かれては不味いので行きたくても「予定があるから」と口実をつけて断ることもあった。  毎回必ずではないが、試合後の打ち上げに参加して、俊也と話すのが何よりの楽しみだった。  理由ははっきりしていたが、認めても良いものか判断できなかった。  光は性指向について公表はしていない。文字通り誰にも知らせていない。もちろん姉にも。  それがこんな身近な、「家族」を通じた付き合いの範囲で男相手に恋愛感情を抱くことが後ろめたく、怖かった。 「光くんはサッカーしないの? よく来てくれてるけど。やりたかったら遠慮要らないよ? 初心者お断りなんて言えるチームじゃないから」  特に含みもなさそうな俊也の問いに、どう答えようか迷う。正直に告げたら気を悪くされないだろうかと不安が過ったからだ。  しかし、核心に関わること以外では嘘を吐かない方がいい。真実に一部偽りを混ぜるのが、隠し事が上手く行く秘訣だ。  明らかにしてはいけないことは最初から決まっているのだから、それ以外ではありのままを告げるのが最善だろう。
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