第一話「キスをしてみませんか」

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第一話「キスをしてみませんか」

 コウさんと始めて会ったときは、なんやこのオカン、と思った。  何故って本当にオカンなのだ。まーピアス開けて、似合ってるけど痛そうに、とか。今は痛くない? 大丈夫? 本当の本当? お医者行く? とか、ぶっちゃけ、しつこっ! と、まで思った。  少し気になりだしたのは、オカンは真正のオカンであること。  家庭科の授業で女子らがクッキーやら何やらと、小洒落たものを作っているのに、コウさんは一人で(いわし)の定食を作っていたということ。  なんやそれ、オカンやん──家庭的やん・と、思った。(俺は家庭的な人に多分弱い。)  で、だ。それを作って俺に食べさせに来たということに、驚いた。 『祝井(いわい)くん、手がちょっと荒れてるじゃない? アカギレとか、乾燥肌にしてもひどいし、会ったときから気になっててね。ほら、鰯はおいしく梅シソで巻いてみた! 骨もちゃあんと、とっといたよ。肌荒れには、ビタミンがいいんだって。ほうれん草のおひたしには、ごま油をあえて、いい香りさせてみたの。いわゆるナムルかな。お味噌汁には、お大根とおあげ、ご飯はワカメの混ぜご飯! 梅の香りしない? 混ぜこんでるから、ここでも栄養たっぷり。ほら席ついて! おあがりなさい!』──ほんま、オカンやった。  怒涛のごとく、食べろ食べろと言われて、その日から毎日毎日ビタミンたっぷりな弁当作ってきて、ほんま購買の菓子パンやって なかなかやのに、とかぶつくさ言うと。 『あのさ、祝井くんは食生活が偏りすぎだよ。お家ではどう、お食事してるの? 身体こわしたら、お母さんたち悲しむでしょ。お弁当にしてもらったほうがいいよ。もちろん私が作るのもいいけど……。どうする? よかったら、リクエスト聞くよ。』──やっぱり、オカンやった。  なんでそこまで俺に色々してくれはるんですか、と、少しときめきながら聞いたら、こう言われた。 『あのね。祝井くんの手、すーごい形、いいなあって思ってて。白魚のような指でしょ。それが荒れてて、もったいないなって思って。わたし指短いから、バランス悪くてね、祝井くんみたいに白くて細長いシュッとした指は、本当に憧れでさ。お母さんからもらった身体で誇れることは、大事だよ。大切にしなね?』──温かい、年上の女性。
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