3人が本棚に入れています
本棚に追加
「え?」
「本能で愛されたら、それはそれで、すごく嬉しいなぁ」
「……やけど、流れに任せたら後々、後悔します」
「それはそうだよね、譬えだよ。でもね……」
コウさんは悩んでいるが、目を伏せて口を開く。
「雌と雄の本能だって、小汚いけど、浪漫だなぁって思うの」
「ですか?」
「ですです。本能。浪漫。いい響き」
「ほなら、次そういう状況になったら襲い倒しますよ、ケダモノの如く」
「あほ、そんなんされたら顔蹴って許さないから」
「冗談です」「ですです」軽く笑って、俺たちは歩き続ける。すると、コウさんと手がぶつかった。すません。なんとなく謝った俺だが、コウさんは何も言わない。どうかしたのか、と視線を持ち上げると、コウさんは赤くなりながら口元に指をやり、「手」と零す。
「だいぶ、綺麗になったねえ」
そろそろ手袋をする季節だが、今シーズンはまだ買ってない。俺は素手を見つめる。
「コウさんのお陰か。いけ好かない」
「どーいう意味」
「あんなに毎日毎日、ビタミンたっぷりな弁当食ったら、そら治るわ。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
苦笑して、手をひらつかせたその手を見て、コウさんは「わたしも治したい」と呟く。
「手汗です?」
「手汗です。治る方法とかあるのかな」
「せやから治さなくてええって。ほんまに。可愛いもん」
「それはイメージでしょ? 結構いつもべとべとしてるの、辛いんだよ」
プリントはびよびよやし、柿ピーはくっつくし、集中力失われるし。
「好きな子と、勇気を出して、手も繋げない。」
はぁぁ、とおおきくため息をついてコウさんは肩を落とした。やから、べつにええって手汗くらい。
「もう」
「えっ」
俺は我慢できずコウさんの手を勝手に握った。ふにふにしていて、しっとりしていて、思っていたより握っていて、ずっと気持ちがいい。
最初のコメントを投稿しよう!