第三話「星屑を寄せ集めて」

3/4
前へ
/25ページ
次へ
「え?」 「本能で愛されたら、それはそれで、すごく嬉しいなぁ」 「……やけど、流れに任せたら後々、後悔します」 「それはそうだよね、譬えだよ。でもね……」  コウさんは悩んでいるが、目を伏せて口を開く。 「雌と雄の本能だって、小汚いけど、浪漫だなぁって思うの」 「ですか?」 「ですです。本能。浪漫。いい響き」 「ほなら、次そういう状況になったら襲い倒しますよ、ケダモノの如く」 「あほ、そんなんされたら顔蹴って許さないから」 「冗談です」「ですです」軽く笑って、俺たちは歩き続ける。すると、コウさんと手がぶつかった。すません。なんとなく謝った俺だが、コウさんは何も言わない。どうかしたのか、と視線を持ち上げると、コウさんは赤くなりながら口元に指をやり、「手」と零す。 「だいぶ、綺麗になったねえ」  そろそろ手袋をする季節だが、今シーズンはまだ買ってない。俺は素手を見つめる。 「コウさんのお陰か。いけ好かない」 「どーいう意味」 「あんなに毎日毎日、ビタミンたっぷりな弁当食ったら、そら治るわ。ありがとう」 「いえいえ、どういたしまして」  苦笑して、手をひらつかせたその手を見て、コウさんは「わたしも治したい」と呟く。 「手汗です?」 「手汗です。治る方法とかあるのかな」 「せやから治さなくてええって。ほんまに。可愛いもん」 「それはイメージでしょ? 結構いつもべとべとしてるの、辛いんだよ」  プリントはびよびよやし、柿ピーはくっつくし、集中力失われるし。 「好きな子と、勇気を出して、手も繋げない。」  はぁぁ、とおおきくため息をついてコウさんは肩を落とした。やから、べつにええって手汗くらい。 「もう」 「えっ」  俺は我慢できずコウさんの手を勝手に握った。ふにふにしていて、しっとりしていて、思っていたより握っていて、ずっと気持ちがいい。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加