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「い、祝井くん」
「どこが悪いん? 赤なるコウさん、ごっつ可愛い」
「……本当に?」
「うそ」
「この天邪鬼!」
「ほんまほんま」
――汗が伝わってくると、ぴとりとした感覚が俺の触覚を支配する。まるで指紋と指紋が重なって、手と手が一つになってしまいそうな、目の前のすべてが白く溶けてゆくような、そんなデジャヴを憶えた。
それが、たまらなく愛おしい。
「コウさん」
「ん」
「好きです」
「……わたしも、」
好きだよ。――にひ、と微笑むコウさんが可愛くて、しょうがなくて。俺って、こんな気持ちを抱ける人間だったのか、と自分に驚いていていて。思わず、鞄をドサリと落として、抱きしめた。
「い、祝井!?」
「呼び捨てとかないわ……呼び捨てるなら名前」
「それ、慣れないから」
ふに、とコウさんの存在感ありすぎな胸が、俺の胸板にやさしくなじむ。
「あんた、ムダにほんまそんな表情したら、あかん」
さらっとしたコウさんの髪を、軽く掻くと。石鹸の匂いが、ふわりと鼻腔を擽る。
「俺、どうにかしそう。舞い上がってもええ?」
「お、落ち着いて、ヒッヒッフー……。ここ表だから!」
それ、ラマーズ法やん。言うあたり、コウさんはものすごく慌てているようだな、と感じた。それがまた愛らしい。でも、拒みはしない。抱きしめられるがまま、という言葉が今はぴたりと似合う。そんな状況に慌てふためく、あなたが。
「好きですよ。」
まだ、なーんも見通しがあらへん関係やけど。
「あ、ありがとう。……わたしも、好きだよ。」
その声も、言葉も、みんなみんな。好きです。
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