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第四話「世界が傾くくらい」
コウさんが来ない。昼休み、いつまで断ってもコウさんが来なくて、俺はハラハラしていた。スマホの打ち損じをすると、大事なそれを叩き割りそうになった。あかん、調子戻さな。
教室に入り、席に着く。時計を見ると、もうコウさんが来るいつもより、十五分経っている、が、コウさんが来ない。俺の腹も空いているから、早よ来てや。そわそわしていたら、「先輩、来ないな」とクラスメイトが声をかけてきた。
「付き合いだして、今がええときやろ。遅ない?」
「遅いな」
「用あるとか、聞いてないん?」
「聞いてない。今日も来る言うてた」
「急用かもな……っと。おー、おったで」
おったで、と言われて俺は顔をあげ、クラスメイトが窓辺に歩み寄っているのを見た。俺は窓辺に早足で近づき、外を見下ろす。
そこには、名前も知らない男と一緒に居る、コウさんが居た。
「あれ、もしかして。告白されとるんちゃう?」
「い、行って来る」
明らかに、動揺している自分が居る。目をつける男が居たか。いや、考えればあんなに良い女を世の男が放っておくわけがない。そんな過剰なことを思っていたと思う。
「まてまて、断ったみたいやし」
クラスメイトに制され、俺は振り返る。もう一度視線を落とすと、そこに居たコウさんは、ぺこりと頭をさげて申し訳なさそうにしていた。
ほんまに、断ったんや。
「自分の存在、あってよかったな」
「当然」
「さっきまで、冷や冷やしてたんちゃうの」
「うっさいボケ」
それなら、早う昼飯食べな。コウさんを呼ぼうと思って、男と最後の会話(らしきもの)をしているコウさんに声をかけようとした、とき。
男が、コウさんを抱きしめた。
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