第一話「キスをしてみませんか」

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「ヤリたがりとか思われたら申し訳ないです。やけど、コウさんと はよう交じりあいたい。あいたくて、さっき言うた……そう受け止めてくれませんか」 「あはは。わかるよ、それくらい」  本当に、わかってくれているようだった。「いいこ、いいこ。」と言って、包容力ある表情で、俺の髪を撫でてくれる。年下扱いすんなとはもう飽きるほど言ったが、この人は、ただ、俺の可愛い部分を好きになってくれている。可愛い部分なんて、あんのかしらんけど。 「コウさん」 「ん?」 「好きです」  恥ずかしくて、どうにかなりそうな感情を零した言葉に、コウさんはにっこり微笑む。笑い皺が淡く滲み、本当に温かい笑顔で。「わたしも好き。」 「なんで俺、こんな人好きになったんやろ」 「どういう意味、それぇ」 「会ってからー、一年も経ってませんよね」 「だねえ。あ、エッチしないなら帰らないで、まだ居ていい?」 「はいはい……」  ゴムはこっちで用意してあるし、いつでも準備万端なんやけど。再びカーペットに寝転がり、コウさんは、むきゃー、と伸びをしている。なんやこの可愛い生き物は。 「コウさん」 「んー」 「手ぇ繋ぎたいです」  ベタぼれやんな、と自分で思う。オカンみたいな人をここまで好きになるなんて、思いもしなかった。いや、うちの母親とはまた別のニュアンスで。 「いや……」 「え」  え。やでホンマ。そこまで拒否られないとあかんのか、とショックだったのが顔に出ていたのか、違う違う! と、慌てた様子でコウさんは続ける。 「わたし、手汗がすごいの! ジンジョーじゃないっていうか。恥ずかしいの、だからだよ、本当に」  そうは言われても、デートなんてものさえ、ろくすっぽ行っていないから、手を繋ぐことも始めてだし。期待したけれど、手汗ごときで俺の気持ちは……と思う。 「ほんとに、気持ち悪いよ? べっとべと。ほら」  コウさんはそう言いながら、ムクリと起き上がり、両手のひらを開いた。確かに、手の皺の溝にある汗が部屋の明かりで、照らされてテラテラ光っとる。  けど、触りたくて。──俺は手を握った。
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