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そう言って、ハンドクリームをつける彼女から、花のようななめらかでいて、本当に良い匂いがしてきて。信じてはくれるのか、と、同時に胸が温かくなる。有難うございます。そう礼を言ってナンバーをタップすると、写真が待ち受けにあった。まだ幼い小学生の男の子が、ピースをして、コウさんとイイ笑顔で映っている。
「誰です? この子」
「小学三年生の、わたしの弟。見たことなかった?」
「初見すわ。へぇ、へぇー」
「なに、へぇー。って」
「可愛い子ですね」にや、と笑って言う俺に、コウさんは赤くなって、なにそれ・と、眉をひそめた。
「似てへん」
「うるさい、自負してる!」
びし、とチョップをされるが、俺はそれでは引かない。手をぎゅっと握り、「わっ」コウさんを引き寄せた。引き寄せて、軽く優しくベッドに押し倒して、その愛しい顔をなめるように見つめてみる。
「え、ちょっと。だめ、わたしまだ」
「ちゃいますって。無理やりは、しません」
「それなら、どいて。お母さんが悲しむようなことはしちゃ、」「しませんて。」
唇に、あんたが褒めてくれた指で触れる。マシュマロみたいに柔らかい。グロスのべたつきも、どうせ、体に使うもんはええもんを! とか言うてたし、そういうの使とるんやろ? あんまないんやろな。けれどつややかな仕上がりになっている。
焦がれる。何かが起きそうになる。コウさんは惚けていて、目を大きめに見開いて赤くなりながら、近づいてゆく俺の顔に目をつむる。
(──キス、くらい。ええよな。)
「ダメ。」
コウさんは俺の胸板に手をつき、少し力を入れて、真っ赤になりながら潤んだ目で。拒んだ。
「……ほんまに、もう……」
あかんのですわ。俺はそういう意味を込めて、歯を小さく食いしばったあと、起き上がる。そのあと丁寧に、「すません」と謝罪して、コウさんをそっと引っ張り起こし、赤くなっていても、確かに怯えた表情の彼女の手を握った。
「祝井くん、男の子なんだから、もう。ふふ。」
今更、何言うてはるんです。その取り繕う笑顔、どうにかしてください。彼女の手汗は、先ほどより手を滲ませていた。
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