第二話「その白を汚してもいいかい」

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第二話「その白を汚してもいいかい」

 コウさんには、男子の中でも、実は女子の中でも、隠れファンが多い。愛想もそれなりによく、気さくで人当たりも良い。  何より、笑顔がいい。よく笑う女性だとは出会ったときから感じてはいた。けれど、はにかんだり、クスリと小さく笑んだり、大笑いまでするのに口元はきちんと隠して。なんや、人間が笑顔に絆されやすいの知っとるんかと思うくらい、笑顔が素敵だ。コウさんは俺の手を素敵だというけれど、俺はコウさんの笑顔が素敵だと、本当に思う。  あの人に恋をしてからは、男前な先輩に声をかけられていると、気が気でなかった。うちの部長と意外と仲良かったり、男友達と買い物出かけてたり。その他、男前とも色々な関わりを持っているがゆえに、本当に不安で。俺なんかよりずっと、ええ先輩らと結ばれてまうんやろか、とか。足りない頭で、めちゃくちゃ考えとった。 「祝井くーん」  昼休み。騒がしい廊下、教室の前でコウさんを携帯を弄りながら待っていると、コウさんは小走りで走ってきてくれた。あー、小動物みたいで可愛い。 「ちわ。今日も可愛いっすわ、ハムスター」 「ハムスター? ううん、ありがと。ちわ。今日もお昼、食べてくれる?」  食べるに決まってるやん。俺は苦笑して「弁当持ってきてへんし」と言うと、コウさんは、嬉しそうにニッコリ微笑んで頷いた。 「今日、なに?」  いつも、昼食を食べる第二家庭科室を目指し、一緒に歩き出す。コウさんの髪がちいさく揺れて、シャンプーとか、コンディショナーとか、トリートメントとか。そういう類いの匂いがして、ドキリとする。じいっと横目で彼女を見つめていると、ん? と、視線を持ち上げて俺を見てきた。慌てて目をそらす。双つある、やや細くも、吸いこまれそうな眼力のある目は、俺を一生懸命に映してくれる。 「(さわら)と野菜のホイル焼き。付け合わせも一緒に焼ける、ヘルシーなやつ。ご飯は詰めるのじゃなくて、大き目おにぎりにしてみた。中身は生姜昆布と、シャケ」 「楽しみ」  いろんな生徒が、少しずつ、俺らを見てくる。コウさんは可愛いし優しいし、気配りが出来るええキャラやから、インドアで静かっぽい印象の俺と居るのは珍しいらしい。俺やって、コウさんの前じゃそれなりや。
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