Daily life and sudden reunion

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2年ほど前に父から譲り受けた家は築浅の中古物件だった。 不動産業をしていた父は趣味で絵を描いていてアトリエのように使っていたという平家。 事故物件かと躊躇した私に、『此処は家族で住むには狭いし単身で住むには広いんだよ。形状的な問題で増築は上にしか出来ないし、年寄りには階段が多くて敬遠される』と説明してくれた。 私の住む住宅地は斜面に沿って広がっていて、駅の北口通りからそこへ向かう近道は階段を登るしかない。それが嫌ならこの緩やかな坂道をテクテクと大回りしながら歩くしかないのだ。 時間にして10分弱の大回りを不便と思わない健康志向な人なら住めるのだろうけれど、天候の悪い日や仕事でクタクタになってやっと帰宅してこの階段は結構堪えると思う。 階段を登り切って、もしくはぐるっと大回りをして上まで来ればようやく我が家。 細長い横長の長方形の敷地一杯に建てられた平家は灰色の箱のような外観。 一軒家なのに庭と呼べるスペースはなく、玄関前に辛うじて車一台停められる広さが残されている。 休日にしか乗らない出番少なめのコンパクトカーは無ければ不便という理由だけで使用している。 車通勤するほど遠くはないし、例え車通勤をしたところで交通費を貰えるほどの距離でもない。 そもそも時間帯に関係なく常に混んでいる駅周辺の渋滞に巻き込まれるのは勘弁だ。 無機質なコンクリートの外壁の中央に紺色の玄関ドアがありそこを開けば大きな窓が印象的な解放感のあるリビング。 高台にあるため視界を遮るものが何もなく湖を見下ろせる贅沢な造り。 内装も至ってシンプルでキッチンもバスルームもトイレも白で統一されていて必要最小限の収納スペースしかない。 面積少なめの壁と床は不思議な模様が入ったダークブラウン。 大きさが違う個性的な階段はボックスになっていて収納も出来る優れもの。 互い違いになっている非常に登りづらい階段の上にはロフトがありそこからも湖が見下ろせる。 確かに、間取り的にもファミリー向けではないし収納スペースが少ないのは難点だ。 この階段も年配の方には敬遠されること間違いない。 何より大きな窓の掃除の大変さは勿論の事、カーテンのない生活に慣れるまでに時間がかかったのは事実。 そんな家で過ごして2年。 1人での生活に戻る事には直ぐに慣れたが、自分の家の中にあるこの階段にはなかなか慣れなかった。 2年経った今でも躓いたり踏み外しそうになりヒヤヒヤする刺激的な階段。 父親は一度落ちたことがあるらしくそれから登ったことはないと笑っていた。 …笑い話で済めば良いけどね。
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