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作り置きしていた人参のラペと昨日半分食べて残した野菜サラダをお皿に乗せ、カットして冷凍していた野菜でスープを作る。
今夜はこれで充分。
遅番の日は退勤が20時だから夕飯を食べる時間が遅くなってしまう。
この時間にガッツリ食べてしまえばすぐにウエイトオーバーだ。
若い頃のように一食抜けば元に戻るような身体では無くなってしまっている。
見たい番組があるわけではないけれどTVをつけて部屋に音を流せば少しだけ安心する。
無音は苦手だ。
音楽好きな両親の影響で目が覚めた瞬間から眠りに落ちる時まで常に音楽が流れている環境で育った。
クラッシックだったりジャズだったり、時には演歌も流行りの歌謡曲も。
食卓を囲む時も音量は控えめに音楽が流れていたし、受験勉強の最中だって部屋で音楽を流しながらだった。
だから帰宅してシンと静まりかえった部屋は自分の家でも居心地が悪いのだ。
やっぱりスピーカー欲しいな。
もうすぐボーナス出るし買おうかな。
この2年は貯蓄するのに必死で余裕はなかった。
いくら父親から譲り受けた家だと言っても名義が自分になれば税金だって払わなければならない。
家賃が無いといったって、いずれかかるであろうメンテナンスの事を考えて備えなければならない。
小さく震えたスマホに視線を落とせば友人からのメッセージ。
高校時代からの友人の栞里が、息子が作ったハンバーグの画像を送ってきた。
5歳になる栞里の息子は最近料理に興味があるそうで、栞里と一緒にキッチンに立つことが多いらしい。
多少不恰好なところがまた微笑ましい。
すぐさまイイねとスタンプを送れば、程なくして着信があった。
「三日ぶり〜」
栞里の緩い口調に頬が緩む。
「マナトくん上手だね、ハンバーグ」
「でしょ〜?私に似て才能があるのね」
「あー、そうだね、栞里と雅人さんの遺伝子だもの芸術的センスはしっかりと受け継いでいると思うよ」
「そうよね〜、で、なんだかわかった〜?」
「え…っと、クマ」
「ざ〜んね〜ん、羊さんでした〜」
羊かい。
思わず吹き出した私につられて栞里もクスクス笑っている。
「敢えて触れなかったのに」
「紅ちゃん優しい〜」
ウサギにしては耳が短いからクマかなぁと思ったんだけど、羊だったのか。
そこから暫く5歳児の感性について盛り上がる。
美容師の栞里が同じ美容師の雅人さんと結婚したのは23歳の時だった。
一回り離れている雅人さんは見た目はイケイケのホストさんのような外見。
とにかくチャラそうで、真面目に栞里が騙されていると思いこんで必死で別れさせようと説得したほど。
でも実際は凄く真面目で、派手な見た目とは裏腹に過去の女性関係はクリーンだったし、誰からも好かれる人だった。
独立資金もしっかりと貯めていてマイホーム兼の美容室を建てたのは数年前で、今では予約をとるのが難しい人気店となっている。
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