渢君が来た(龍之介)

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渢君が来た(龍之介)

今日渢君が退院する、病院を出たら今日から僕の家族になってこの家で一緒に住めることになった。 渢君が来たら部屋へ案内して、学校の事やこれからの事を沢山話そう。 部屋には机もベッドもかばんも全部そろえてある、きっと気に入ってくれるはず・・・・・一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝るんだ。 もうどこへも行かなくていい、ずっと僕が一緒に居る。 一人ぼっちで寂しいことも、食べる物がなくてお腹を空かす事も無い、いつだって僕が守ってやる。 渢君は僕を変えてくれたんだ、僕は今まで一度だって父さんに何かをお願いしたことはない、いつも言う事を聞いて勉強もしたし、ピアノの練習も剣道もボクシングも好きじゃなかったけど、休んだこともサボったこともなかった。 母さんが居なくて寂しくても泣かなかった、でも渢君がいなくなることだけは嫌だった。 ずっと一緒に居たくて、泣きながら父さんに頼んだ。 僕のお願いを聞いてくれなかったら、もう一生僕は父さんの言う事は聞かないと言った。 父さんが僕の願いを叶えてくれた。 本当にありがとう、僕は渢君がいないと寂しくて生きていけない、それぐらい渢君の事が好きなんだ。 僕が全部面倒を見る、知らないことも教えてあげる、これまで学校へ行ってないから勉強だって僕がちゃんと教える。 渢君がお父さんの事を先生って呼んだら、お父さんが「孝太郎さん」って呼んでって言ってた。 僕も渢君と同じように呼ぶことにした、だって僕だけお父さんって呼ぶのは嫌だから。 渢君と同じように今日からは「孝太郎さん」て呼ぶからね、そういったら驚いてたけど、ダメだとは言われなかった。 春さんが笑ってた、春さんも渢君の事が好きでよかった。 学校から帰ったら、渢君が春さんと一緒におやつを食べていた、嬉しくて渢君の食べてたクッキーを奪って食べてやった。 弟と遊ぶってこんな気分なのかな。 2階へ行って部屋を見て、僕の部屋も見せたらポスターとかパソコンとか始めて見たのか驚いてた。 パソコンも本も何でも僕の物は渢君も使っていいよって言ったのに、なんか少し遠慮してる。 お風呂も一緒に入って髪も身体も僕が洗ってあげた、おとなしく洗われてる渢君が可愛い。 髪もドライヤーで乾かして、冷蔵庫から冷たい牛乳を出して飲んだ。 渢君が牛乳はメロンパンと一緒に食べると美味しいんだよって言ったけど、僕は知ってる、渢君はあの部屋でずっと一人でメロンパンと牛乳を飲んでたって事を・・・・・そのメロンパンも無くなって、意識不明になって運ばれた事・・・・渢君はそんなメロンパンが今も好きなのかと思ったら悲しくて渢君がいじらしくてたまらなかった。 歯を磨いて僕の部屋で一緒に寝た、渢君が自分のベッドで寝なくていいのって聞いたから、まだ一人で寝るのは嫌でしょって言ったら、うんって可愛く首をコクンってして、僕のベッドに入ってきた。 一人で寝なくても僕が居るから怖いことも寂しいことももうないんだよ、そう言って背中をトントンしてあげたら、すぐに眠った。 寝てる渢君の顔はやっぱりあの日見たお人形のように綺麗だった。 色が白くて髪も柔らかでフワフワで長いまつ毛、目を開けると黒い大きな瞳で僕を見つめる、そんな渢君がこれからずっと僕の側にいてくれる。 僕はこれからずっと渢君を守ると決めた。
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