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序)シュナイドー公爵家令息ヘリオトロプ
王都大聖堂での結婚式は、荘厳に執り行われ。
その後の披露パーティは盛大に。公爵本邸で開かれた。
高位貴族家のほとんどが招待されるという規模。
これだけでも、我が両親が花嫁をどれほど気に入っているか。
花嫁の実家がどれほど裕福か。
・・・わかろうというもの。
外が暗くなり始め、今日の主役である私たちは。
出席者の生暖かい視線を受けながら、会場であるタウンハウスを後にすることになった。
玄関前に用意された馬車へ乗り込む。
領地ほどでは無いものの。王都にあるこの敷地もそこそこ広い。
端にある離れ・別邸まで歩くのは遠すぎる。
別邸は、1年前から調えてきた。
私が爵位を継ぎ、両親が領地で隠居するまで。新婚であるふたりは、こちらで暮らしたほうがいいだろうと母上が提案してくれたから。
馬車はゆっくり進む。
乗り込むときにエスコートしたままの手をぎゅっとにぎり。
「疲れてはいないか?」
そう聞くと、妻となった女性は小さく頷いた。
緊張しているのだろうか・・・。いつもなら、話しかければ私の方を見てくれるのに。
伝統に従って、馬車から花嫁を抱えておろし。そのまま、彼女の部屋へ抱いて行く。
ソファへおろし、ベールをとって。
あとは侍女たちを呼び、湯あみをしてもらって・・・。
この後の段取りを考えていた私に。
「お話があるのです」
緊張した声がかかる。
なんだろうと隣へ座りこむと。
「どうか白い結婚をお願いいたします」
ロベリア嬢は・・・結婚したばかりの妻は。まっすぐに私を見て。
・・・無表情にそう言ってきた。
は?
ここへきて、何を言い出すんだ?
私には、すぐに言葉が出なかった。
「あなたの愛する方との間に出来るお子様を。わたくしの実子としてくださって構いません。
もしも、わたくしに預けていただけるのなら。きっと立派に育ててみせますわ。
もちろん公爵夫人として、社交にも努めます」
私の愛する女性?
・・・あぁ、彼女のことか。実は怒っていたというわけか。
そう思って瞳をのぞき込むけれど、その瞳には何の感情もないように見える。
単に、私が嫌いだということなのか?
「彼が好きなのか?
ソースベリ侯爵家令息がいう通り、あちらと婚姻すればよかったんだ」
私の声は自分でも嫌になるほど冷たい。
ロベリア嬢は変わらず無表情に私を見ていたくせに。
話そうとして再度開いた彼女の唇は。震えていた。
「あなたには・・・お分かりになりませんわ」
彼女の冷たい緑の瞳は、私を見据えているようでいて・・・遠くを見ているようにも見える。
あぁ、ひとつもわからないよ!
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