ソースベリ侯爵家長男リアトリス ③

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ソースベリ侯爵家長男リアトリス ③

ロベリアと俺は2学年へ。ヘリオトロプ達は最終学年へ進級した。 学園は学年ごとに校舎が決められ、3年間同じ校舎を使う。 最終学年が卒園すればそこは、新1年生の校舎となるわけだ。 食堂は3つの建物のほぼ中間地点にあり。手ごろなランチが提供されている。 入園式の翌日。そこには、初々しい新入生が開いた席を見つけようときょろきょろしていて。 「わたしたちもあんなふうだったのね」とほほ笑むロベリアは可愛かった。 我がクラスの雰囲気はとても良いままで。クラスメイトと一緒に食堂でランチをとることが日常化している。 婚約者が居るご令息、ご令嬢は毎日ではないが。 同じ学園に婚約者が居ない方ほど、相手に気を遣うようだ。 もちろんロベリアは例外で。いつだってみんなの中心にいる。 彼女がいてくれるおかげで、婚約者が居るご令嬢も参加しやすいのだと思う。 ロベリアは。 婚約者と月に一度のお茶会を熟している。婚約してから、欠かすことなく。毎月。 数か月に一度は、他家へのお茶会に一緒に出かけていっている。 観劇に行ったのは、これまでに2回だ。 もしも婚約者が俺だったなら、こんな少ない交流で済ませたりしないのに。 毎日花を届けて。会える限り会いに行って。 俺の色のドレスを届けて・・・。観劇へ・・・エスコートを・・・。 俺に恥ずかしそうに笑いかけるロベリアが脳裏に浮かぶ。 ・・・手に入れたい未来を夢見てしまう。 あのピンクブロンドは進級した今年も。時々俺たちのクラスへ来はじめた。 もう少し、積極的に動いてくれればいいのにと思ってしまう。 だめだだめだ。 そうなったら、ロベリアが嫌な思いをするじゃないか。   ・ 廊下で。ピンクブロンドと別れたばかりのロベリアを見つけて・・・。 また捕まっていたのか、可哀そうに。 いつも偉いな、と近づいて声をかけると。 「リアトリス様・・・ありがと」 ロベリアは珍しく、顔を曇らせていた。 ただじっと見て。どうかしたか、とは聞かなかった。 「そういう態度。ほんとあなたってうちの兄さまと似てるわ。 だからリアトリス様と居るとほっとするのかしらね。 ・・・誰にも内緒にしてくれる? あの女性はどうでもいいんだけど。 ・・・婚約者を取られた、とか噂されて。 知らないご令嬢から嘲笑されるのには、実はむっとしてるのよ」 俺にだけ。こそりとそう愚痴ってくれた。 すぐにロベリアは、言ったらすっきりしたわ。とにこりとするけれど。 彼女が愚痴を言うなんて初めて聞いた。いつだって、前しか向いていないのに。 俺に・・・甘えてくれた? ヘリオトロプにもあの女にも。怒りを覚えたけど。・・・それよりも。 俺にだけ打ち明けてくれたことが。・・・特別扱いされた事が嬉しかった。   ・  ・ 教壇は少し高くなっていて。ロベリアは躓いた。 「あぶない」 手を出して、支える。 甘い香り。華奢な体。 「ご、ごめんね。ありがとう」 急いで離れようとする彼女に追いすがる。 ぎゅっと抱きしめると、柔らかく跳ね返す弾力があって。 ・・・はじめて女性を抱きしめた・・・。 「お離しください」静かな声は敬語で。 婚約者に筋を通す気なんだろうと思った。 「・・・いやだ」 馬鹿なことを言っている自覚はある。でも俺は手を緩めなかった。体温が心地いい。ロベリアは確かに困惑しているけど、嫌がってはいない気がした。 あぁ。 公爵家嫡男の不貞の証拠が見つかればよかったのに・・・。 諦めのつかない俺は、ヘリオトロプがロベリアを蔑ろにしている事実が見つからないかと・・・調べ続けていた。 だけどあいつは。ロベリアに対して、婚約者としての贈り物を欠かしていない。 あのピンクブロンドには、何ひとつ贈ったりしていなかった。 確かに距離は近くとも。あの女と二人きりになったこともなく、あの女の肩を抱いたりしたこともなかった。 あのふたりの関係は。幼いころの感覚が抜けなかっただけだ、と言い訳できるものでしか、なかった。 公爵家としてもまた、引き離す明確な理由がなくて。手を打てなかったのかもしれない。 通常なら。怒って何か言うべきロベリアが、なにひとつ伝えていないことも関係していそうだ。 ロベリアは本当はヘリオトロプと婚姻したくないから。何も言わないんだろうか?あの女が問題を起こすのを待っている? 公爵家とロベリアの婚約は、相手家の借金が原因。本当に政略的なものだとだけは判った。 ・・・それなら。好きでもない男に、我慢する気なら。 「婚約者が俺に代わってもあなたには、違いはないだろう?」 悔しいことに俺の手札はこれしかなかった。 ”違いはある” 一瞬、彼女の言葉が呑み込めなくて。 ショックを受ける俺を放って。彼女はするりと教室を出て行った。 ・・・やってしまった。 婚約者のいる女性を抱きしめるなんて。なんてことをしてしまったんだろう。 俺が一番嫌悪する態度じゃないか。なんて情けないんだ、俺は。 焦っていたんだ。ぐっと拳を握り締める。 最近の出来事に。彼女の態度に。焦っていた。 学園で、一切ロベリアと接触しなかった公爵令息ヘリオトロプが。最近、彼女とランチをとるようになった。 あのピンクブロンドは他国へ短期留学したと言われている。学園で見かけなくなった。 ロベリアは。毎週の婚約者とのランチに気負っているように見えた。 俺に対する彼女の気安さも・・・薄れた気がしていた。 手のひらが痛いな、と思えたのはしばらく経ってからで。 拳を握りしめていたせいで、爪の跡がしっかりとついていた。 ・・・帰ろう。 ロベリアには明日、謝ろう。 友人に戻ってくれるだろうか・・・いや、図々しすぎるな。 せめて、クラスメイトとしての交流は許してくれるといいんだけれど・・・。 落ち込んだ俺は、教室を出て・・・。 柱の陰に誰かが立っているのを見つけた。
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