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序)ソルティン伯爵家令嬢ロベリア
美しい貴族の微笑で。
公爵閣下が話しかけてくださる。
「ロベリア嬢はお菓子は何がお好きかな?」
失礼のないように、目の前にある菓子の名前を告げる。
「そうか」
ともっと笑みを深くした閣下は、視線でメイドを動かされ。
目の前のお皿には、今言った菓子が乗せられた。
繊細なお菓子・・・。
美しい装飾のお皿。同じくカップ。メイドの前のポットもワゴンも。何もかもが超一流。
招き入れられた公爵家の応接間は広く。天井も高く。
豪華なシャンデリア。年代を重ねたらしい重厚な家具。
ふかふかとした、最近流行の模様の絨毯。
贅沢な部屋なのに、どこか落ち着いた雰囲気に仕上げられているのが凄いわ。
とはいえ、今日はピリッとした緊張感が漂っているんだけれど。
長いテーブルを挟んで、一人掛けのソファが3脚ずつ並んで。
真ん中の1脚はそれぞれ片方に寄せられて。
わたしの向かいには公爵夫妻。嫡男の向かいには伯爵夫妻。
面接だと覚悟をしてきたわ。でもあまりにあからさまでちょっと辛い。
「先ほどは、とても美しい礼だった。まだ12歳だと聞いたが、さすがは優秀と噂されるご令嬢だね」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
にこりともしないことを。咎められるかと思いながら返事をする。
わたしは、態度を決めかねていた。
「ほんと、しっかりなさっていること。わたくしが12歳のころにはマナー講師に叱られてばかりいたわ」
ふふふ。と公爵夫人の優し気な声・・・目の奥が笑っていないわ。
怖い。
でも、表情には出したりしないわ!
自分を激励して。なんとかお返事をして。
無表情を貫いた。
隣では、両親が。公爵令息に話しかけている。
商人として使う柔らかな微笑みを浮かべて。彼を誉めている。
今日のお茶会は、婚約者として初の。顔合わせ。
使用人以外で部屋にいるのは、6人。
公爵閣下、夫人。嫡男。
伯爵夫妻・・・つまりわたしの両親と。わたし。
通常のお見合いであれば、今日の様子を見て正式な婚約が結ばれるんだけど。
この婚約は政略で。
確かもうすでに、契約書は交わされていたはず。
わたしに断るという選択肢はなく。
摘男にも断るという選択肢は無かった。今のところは・・・。
公爵家の3人は卒がなくって。
帰りの馬車に乗り込むまで、わたしはかなりの緊張を強いられた。
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