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① シュナイドー公爵令息
私が13歳の時。我がシュナイドー公爵家は、とんでもない額の借金を背負った。
代々続く我が家の歴史は古く重い。
何度も王子殿下の婿入りがあったし、何度も王女殿下のご降嫁があった。もちろん、数代おきにではあるが。
私の曾祖母も元王女だ。
ここ数百年の我が家の最大の収入源は保険業。保険料を受け取り、何事かが起こった時にはその補償を請け負う。
信用のある我が家には最適な業種だった。
しかし。
その何事か、が起こったのが13歳の時だった。
「まさか我が代であれほどの事故に巻き込まれようとは・・・」
公爵である父上はすっかり落ち込んでしまわれた・・・。
そして父上はすまぬ、と私に言ってくださった。
「そんなお言葉は不要です」
次期公爵として何不自由なく育ててもらっている。次期公爵としてなさねばならぬことくらい知っている。
だから。
私はその日、12歳の少女と婚約した。
お相手は数代前までしかさかのぼれぬソルティン伯爵家のご令嬢。
商いに成功し、かなり潤沢な資産をもつ伯爵は、我が家の借金を肩代わりしてくれた。
返済が滞りさえしなければ、無利子無期限でいいという破格の条件。
ただし。
・・・娘が次期公爵夫人である間は、だが。
初の顔合わせは、公爵邸で行われた。
両親とともにやってきたご令嬢は。
アッシュブロンドの髪にきりっとした緑の目。可愛らしい顔立ちだが、気が強そうだという印象を受けた。緊張しているのか終始無表情だった。
・・・これから、会うたびに。我が家に借金があるくせに、という対応をされるかもしれないと思った。
何をどれだけ罵倒されようとも婚約解消はできない。
私は静かに覚悟をしていた。
娘とは反対に。伯爵夫妻は表情をあらわにされる方々で。とても嬉しそうに終始微笑まれていた。
夫人は、公爵家代々の私の赤い瞳と。王族と同じプラチナブロンドを誉めてくれた。
伯爵は。
「学園ではかなり優秀な成績を修めておられるとか。ご子息と婚約できるなど、わが娘には僥倖です。どうか仲良くしてやってください」と。
少しも高圧的ではなかった。
正直なところほっとしていた。
我が両親も、ご令嬢へにこやかに話しかけていて。無表情ながらも、きちんとした受け答えをしている。
ただ彼女は緊張しているのだ、と両親はとったようだった。
・
顔合わせは、無事に済んだ。これで我が家は少し落ち着くことができる。
・・・それでも。
伯爵家の3人を見送って、自室へ戻ると。
はぁ。というため息が漏れてしまった・・・。
私に今まで婚約者がいなかったのは。幼馴染で同い年、はとこの子爵令嬢と結婚したいと考えていたからだ。
父上はあまりいい顔をしていなかった。それでも。私の熱意に負けて。
「学園を卒園しても、結婚したいと思うようなら。
どこか伯爵家以上の家に養女にしてから、婚約させよう」
と言ってくれたばかりだった。
つまりこの婚約で。
私は、私の初恋を諦めねばならなかった。
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