④ ロベリア

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④ ロベリア

入園式。 シュナイドー公爵令息は、もちろん。社交界の縮図のようなクラスにいるし。 わたしも、そんなクラスへまわされるはずだわと覚悟をしてた。 公爵家の婚約者とはいえ、わたしは伯爵令嬢でしかない。立ち回りはかなり難しくなるはずよね。 不安が無かった、と言えば嘘になるけど。 状況が悪いほど面白いわ!うふふ。きっとやってやるわ!! ・・・って妙な気合が入っていたんだけどなぁ・・・。 わたしのクラスは、社交が苦手な人ばかり集められたクラスだった。 え?ちょっと拍子抜けしちゃったわ。 入園前の試験で満点だった令息は、人と話すことすら嫌いのようだし。 代々王宮勤めをする家系の令嬢は、自分の好きなことを語りすぎるタイプだった。 剣のことしか頭にない脳筋の子爵令息に。 侯爵家長男のくせに爵位を継ぐ気がない令息。 でもみんな、話してみるとすごくいい方ばかり。 おかげでわたしは、ご友人を持つことができたわ。 正直に言うと。楽しい学園生活なんて諦めていたから、とっても嬉しかった。 このクラスで一番身分が高いのは、ソースベリ侯爵令息。 巨漢ってほどじゃないけど、背が高くてがっしりしてて。 代々騎士総長を輩出する部門の家柄なのねぇ。剣を握らせるときりっとしてるけど。いつもはニコニコしている柔らかいイケメン。 ・・・性格は真っすぐ過ぎね。前しか見ていない。これは確かに侯爵として貴族社会を渡っていくのは難しいかも。 学生はみな平等に学ぶべき、とされてはいるけど。 忖度は存在するのよ?なのに侯爵令息ったら。 「みんなで一緒にランチを取ろうよ」 って。誰も断れないことに気付かないまま提案するの。 悪い人じゃないから、余計に困った人だわ。 わたしを見るとにっこり笑うし。話しかけると頬を染めるし。 そんなに鈍くないつもりだもの。 気に入られたらしいってわかってるけど・・・ちょっと教室での距離が近すぎるのよねぇ。 でも・・・これも。誰も咎めるわけにはいかなくて。 ううむ。 これって・・・もしかして。わたしといとこを勘違いしてないかしら? 髪色や目の色が似ているいとこは、ソルティン子爵令嬢。 丸いぱっちりとした目で。大人しくて、可愛らしい。 ソースベリ侯爵家令息のリアトリス様は。彼女を伯爵令嬢だと思っているんだわ。わたしのことは婚約者のいない子爵令嬢だと思っている。 そう思わないと、あの距離の詰め方はマナー違反だもの。 そういえば・・・。 そうよ!公爵閣下も本当は間違えて、わたしを婚約者に指名したんじゃないのかしら? 淑女だと噂されていたのは、このいとこのほうだもの。   ・ ひとつ年上で、校舎が違うシュナイドー公爵令息とは。 学園では、まったく会わなかった。 ・・・なのに。 同じ条件のはずの。公爵令息の幼馴染だという女性は。 わざわざ時々。わたしに会いにやってくる。 そう、たしか公爵閣下が。 ”息子が結婚したいと言っている一族内の少女。13歳になるというのにマナーもなっていないし、我儘な子” と表現した女性。 ひとつ年上だから、今は14歳? 体形がまるで違うわねぇ。 わたしも来年になったら、あんな風に胸が大きくなる!ってことは無さそうだわ。・・・わたしのお母様もスレンダーだもの。 ピンクブロンドの髪にとっても可愛らしい?!話し方で。 「昨日もヘリィとぉ。あら、ごめんなさぁい。ヘリオトロプ様とランチを共にしましたのよぉ」「婚約者でいらっしゃるのにぃ。交流もなさらないのはよろしくないと思うわぁ」「ヘリィはぁ。寂しいからあたくしを誘うのかしらぁ?どうお思いになるぅ?」「もう学園に入ったんだものぉ。殿方に好かれる努力をなさったらどうかしらぁ?」「お化粧とかドレスとか。もっと工夫が必要じゃないかしらぁ?」 とか言って帰っていく。 公爵家令息が彼女を好きなんだって知っているし。学園でべたべたと仲良く過ごしているとも聞いている。 だけど。別に彼女に思うことは無いわ。 最初は彼女の話を真面目に聞いていたんだけど、どうやら同じことを繰り返してるだけだから。最近では聞いてるふりしかしてない。どうでもいいの。 ・・・怒ってるからじゃないわよ? 彼女がいてくれるから、婚約解消の可能性、つまり私がお店を持てる可能性が。上がるんだもの。 ただ。 彼女が違う校舎まで来るせいで。 同学年のご令嬢から、婚約者を奪われた女だと噂される羽目になったわ。 どうしてみんなこういう話が好きなのかしらね。下世話だわ! そんな事実はないから!もともと彼女のものだし。わたしはあんな人要らないし。 政略だから、わたしのことは気にしないでいいって。会いに行かなくていいって。公爵令息から言ってもらえないかしら。 悩んで・・・2学年の校舎へ行ったんだけど。 廊下で見かけたシュナイドー公爵家ご令息が、へらへらとあの女に笑いかけていたのを見てしまったのでやめたわ。 あんな情けない顔もするのねぇ・・・。びっくりしたわ。 わたしの前では、いつだって紳士然とした微笑みをたたえているのに。 彼女がよっぽど好きなのね。そんな女性の文句を言ったら。わたしの方が悪い。彼女を虐めているんじゃないのか?と疑われかねないわ。 面倒くさい。 早く婚約を解消したいわ!
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