⑥ ロベリア

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⑥ ロベリア

学園で、友人と過ごすのが楽しすぎるのかもしれない。 最近、考えてしまうの。 18歳を過ぎて婚約を解消したら、同じ年代の方とは結婚できないわよねぇ。 って。 遅くとも学園卒園までには、婚約者を持つのが普通だから。18歳になる頃には。ご友人たちはみんな、結婚や婚約をしてしまっているはず・・・。 どうしてもパートナーが欲しいと思うなら。年齢の離れた方へ後妻として嫁ぐのが一番あり得るわ。 でも。 もしも今決断したら。 借金返済まで待たずにさっさと婚約を解消したら。 他の、同じ年代の婚約者を見つけることが。わたしにもできるかもしれない。 結婚願望なんてなかったはずなのに。 こんなふうに話の合う同年代の方と。一緒に過ごすのは楽しい、と思ってしまっている。 シュナイドー公爵令息は、あと半年ほどで卒園するけど。 私にはそれから1年、学園生活があるんだもの。 今なら、まだ。婚約者のいないご令息はいなくもないわ。 ・・・というか目の前に・・・居るわ。 ソースベリ侯爵家令息リアトリス様。 この1年半。彼の近い距離に困ることも時々あったけど。 嫌じゃなかった。 話も合うし。・・・彼は兄さまと似ているし。 思考も。態度も。 実力主義で。自分には厳しいけど他人には甘め。 貴族としての腹黒さは・・・少しは持っているってわかったけど。甘いところのほうが多いわね。 武門の家柄だからか、少し直情的なところもある。でも許容範囲よ。 頭を撫でられるのも嫌いじゃないのよね。貴族令息の態度としては、ダメだけど。 いつだって、優しい瞳でわたしを見てくれてる。 彼との婚約だったら。 わたしはこんな気持ちでいなくていいんじゃないかしら。 お父様に、相談だけでもしようと。 悩んでいたころのことだった・・・。   ・ 「ソルティン嬢」 え? この声は。 教室で、友人たちと話していた時に。 振り向くと婚約者。条件反射で表情を消す。 どうして彼がここに居るの? 「今日、ランチを一緒にいかがかな」 はぁ?なんで?・・・と言いたいけど言うわけにもいかないわ。 立ち上がり「ありがとうごさいます」と淑女の礼をとった。むろん。アルカイックスマイル。 昼食の時間。 友人たちは困った顔で。教室を出て行った。 明らかなわたしの態度の違いに。政略の婚約だと改めて感じ、可哀そうに思われたみたいだわ。 可哀そうかは、よくわからないんだけど。 リアトリス様は特に不機嫌だったわねぇ。と遠い目になってしまう。 公爵令息は誰も居なくなった教室に。すぐにやってきた。 「ここで食事をしてもかまわないかな」 はいと頷くと、令息は侍従に食事をセットさせはじめた。 さっと手を取り、エスコートして椅子に座らせてくれる。 このそつのない対応に。わたしはすっかり慣れてしまってて。 マナーの授業は、いつもイライラしてしまうのよねぇ。 同級生のエスコートの下手くそさといったらないもの。 まだましだわ、と思うリアトリス様でも。比べたら半分くらいの点数しかつけられない。 向かい合って座る。お茶会の時より近いわ。 へぇ、こうやって見るとひげをそった跡があるんだわ。いつもつるすべだから、生えないのかと思ってた。 何の温度もない瞳。それでもまっすぐにこちらを見るところは嫌いじゃない。 「ご友人が多いんだね」 ・・・その言葉になんだか不穏な響きを感じる? 「はい。皆様にはよくしていただいておりますわ」 ・・・どう答えるべきだったのか。彼は珍しくほんの少し瞳に感情を宿す。 「名前を呼ばせているのだね」 「いとこも同じクラスですし」いとことは同じ家名だから「わかりづらいので」 うちは歴史も浅いから違う名前の従属爵位を持っていないのよ。 「私もあなたの名をよんでいいだろうか」 「・・・光栄でございます」 今度こそ。なんで?って聞くところだった。 婚約して2年も経った今頃? いったいどうしたというのかしら。解消予定の婚約者であろうとも、他の男と話すのは気に入らないの?頭を触られたのを見られてた? ・・・その割には不機嫌という態度じゃないわよねぇ。 あれを理由にこちらの不貞で婚約破棄とか言い出す気かしら? まさかね。いくらなんでも、幼馴染の件で即やり返されるってくらいわかるでしょう。 ほんと。いったいどうしたというのよ。 いつもなら、卒なく無難な話をしてくれるのに。令息は、困ったように黙ったまま。 沈黙がいたたまれないわ! なのに、わたしにもなにも話題は浮かんでこなくて。 ため息をついてしまいそう。 さっさと食べて、教室から出てってくれないかしら。 軽く息を吸った公爵令息は。 「ロベリア嬢」 呟くように言ったんだけど・・・。 わたしの名前を呼ぶその声が甘くって。 ほんとにわたしの名前を呼んだのかしらと、どきりとしてしまった。 きっとあの幼馴染のことをそんな風に呼んでいるんでしょうね。 婚約解消の話がしたくて、わたしに会いに来たのかしら。 そう思いついたから、話し出されるのを待ってみたけど・・・。 ・・・結局。 週に一度。学園でのランチを約束させられただけだった。 どうしてそんなこと言い出したのか、まったくわからないけど。 食事はこっちで用意するって言ったわ。 まさかとは思うけど、婚約解消するよりわたしに居なくなってもらおう、なんて毒でも盛られたらたまらないもの。 今日の食事は大丈夫なんでしょうね? 話がないから手持無沙汰で、ぱくぱく食べちゃったわ。 ああ嫌だ! 今更、こんな交流はいらないんだけど!      
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