③ シュナイドー公爵令息

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③ シュナイドー公爵令息

ソルティン伯爵令嬢は、たった1年近くの教育で。公爵家婚約者としての社交が認められた。上位貴族家へ婿や嫁に入る場合、何年もかけて婚家のマナーを学ぶのが普通だというのに。 しかし、認めたのは公爵夫人としての母上だ。優しい母上だが、このようなところで甘い点数はつけないだろう。 ソルティン伯爵令嬢はかなり優秀なご令嬢だったらしい。 はとこである幼馴染にはいい顔をしない父上だが。ソルティン伯爵令嬢のことはいつも褒めている。経済の知識もあり、他国の言葉も流ちょうに話す。あれ以上の婚約者は見つけられない、と。 幼馴染を「可愛らしい子」といつも言ってくれる母上も。ソルティン伯爵令嬢をお茶の時間に誘って、楽しそうに話していることがあった。 義理の母子になる予定だからと、無理をしているのかもしれないが。 初めて婚約者同士として出席するお茶会は。 「最初は緊張するでしょうから」 と。母上が友好関係にある侯爵家のお茶会を選んでくれた。 彼女を連れて参加しろと言われたものの。・・・婚約者は伯爵令嬢でしかない。実は少し不安だった。 しかし。 贈ったドレスを卒なく着こなして。ソルティン伯爵令嬢は堂々としていた。彼女の振る舞いは完ぺきだった。 そうだよな、毎月のお茶会でも失敗などしたことはないもの。 私はほっとして、彼女を婚約者だと紹介した。 しかし。 このお茶会を選んだのは良くなかったかもしれない。 そこには、私の友人たちも幾人か来ていたし。 全員が同じ派閥だから、雰囲気も柔らかく。 みんな気持ちが緩んでいたのだろう。 「彼女が婚約者なのか?」 その言葉選びは完全に友人の失言だった。 周りはすっと静かになったが。 ・・・私はただ微笑んでおいた。 聞こえたはずのソルティン伯爵令嬢も完ぺきなアルカイックスマイルを崩しはしなかった。   ・ 学園には、15歳になる年までの3年間通うものだ。 婚姻は男女とも16歳から認められるので。 婚約者のご令嬢が卒園してから1年以内。誕生日が来れば婚姻する者もいる。 特に高位貴族家後継ぎの結婚は、早いこともある。 最近。母上は婚姻の準備を促し始めた。 私の卒園まで、半年。ソルティン伯爵令嬢の卒園まで1年半。 「卒園後すぐに彼女の誕生日だもの。 16歳の誕生日を迎えたらすぐに結婚式をするには、2年も無いわ。 もう今から準備をしないとドレスが間に合わないわ」と。 ・・・しかし。 実は私は。借金を完済する目途がついたことを知っていた。 ソルティン伯爵令嬢との婚姻を先延ばしにして、18歳まで婚約者のままでいれば。借金を返済してしまえる。 そうすれば・・・婚約解消が出来る。
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