暇つぶしに結婚

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暇つぶしに結婚

 その日、ボクにとってになった。  毎年思うことだが、この夏は異常に暑い。深夜になっても三十度を下回ることはない。まるで壊れた寒暖計のようだ。  放課後、ボクは講義室の大きな窓から空を見上げた。構内も電力節約のため涼しいとは言えない。日差しの強い窓際へ寄ると汗が滲んできそうだ。 「はあァ……」  大きなため息をついた。まもなく夏のバカンスだ。彼女でもいれば、近くの湘南海岸へでも繰り出して海水浴を楽しむのだが、あいにくデートに誘う彼女も居ない。  夏休みだと言うのに(ヒマ)を持て余して仕方がない。  しかも先日、推しのアイドルのスキャンダルが発覚し、週末恒例の握手会へ行く気も()せた。せっかくパンデミックも収まって初めての夏休みだが、行く(あて)もない。今年の夏休み中も部屋にこもってゲーム三昧(ざんまい)だろう。  澄みきった青い空とは裏腹にボクの気分は限りなく憂鬱(ブルー)だ。窓から降り注ぐ真夏の日差しが眩しい。 「ったく、ヒマだなァ」  落ち込んで不満をボヤくと不意に背後から女性に声を掛けられた。 「ああァら、そんなに(ヒマ)なのかしら?」 「え、まァヒマって言えばねえェ……」  誰かわからないが声のした方へ振り返ると可愛らしいお嬢様が微笑んでいた。 「あ……!」  誰なんだろう。見たこともない美少女だ。アイドル顔負けの令嬢だが知り合いではない。だが彼女は妙に()れなれしくボクに微笑(ほほえ)みかけてきた。 「そんなにヒマならちょうど良かったわ」 「なにが、ちょうど良かったんでしょうか」  ボクはビックリして狼狽(うろた)えてしまった。 「暇つぶしに!」  彼女はまるで当たり前のように手を差し伸べてプロポーズをした。 「な、な、なんですってェーー?」  思わずボクは構内と言うことも忘れ絶叫してしまった。  どこの世界にがいるんだ。  いくら何でも非常識だろう。    
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