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プロポーズ
なんの前触れもなく突然、結婚の告白をされ面食らった。しかも相手は見ず知らずのお嬢様だ。前代未聞の出来事だろう。
辺りに生徒がいなったのが、せめてもの慰めだろう。
ボクにとって緊急事態と言っても過言ではないので、取り急ぎ自己紹介をしておきたい。
ボクの名前は浦島真太郎という。
昔からよく時代ハズレの浦島太郎とか、チン太郎と言われからかわれた。ボクだって、何もすき好んで浦島真太郎なんて名前にしたワケではない。
当然、『チン太郎』なんてありがたくもないアダ名ではクラスメートの彼女にモテるはずもない。恥ずかしい話しだが彼女居ない歴、生まれてからずっとだ。
ルックスはそれほど悪くはない。地味なイケメンで通っている。けれども女性を前にすると緊張して上手く話せない。
もっと積極的に『付き合って』と告白していれば、今とは違って恋人の一人くらいはできたかもしれない。
今年の春に高校を卒業後、四月から地元の湘南美浦大学へ進学した。
何ごともなく夏休みを迎えようとしていたが突然の急展開だ。降ってわいたようにお嬢様からプロポーズをされた。
しかも会ったこともないご令嬢から結婚の告白だ。まさに青天の霹靂と言えるだろう。
「なによォ。そんなに驚いて?」
お嬢様は驚愕したみたいに大きな瞳でボクを睨んだ。
「そ、そりゃァ、ビックリしますよ。いきなり背後から『結婚しましょう』なんて声を掛けられたら」
ただでさえボクは女性と交際したことがないのだ。突如、現われたお嬢様と結婚なんて考えられない。
だいたい交際ゼロ日婚と言うのは聞いたことがあるが、交際した事もないのに結婚なんて聞いた試しがない。
「じゃァ、行くわよ。チン太郎」
けれども彼女はいたってマイペースだ。
「いやいや、チン太郎じゃァありませんよ。真太郎です」
「構わなくてよ。チン太郎で!」
「いやァ、そちらが構わなくてもボクが構いますよ」
このままボクをどこかへ連れて行く気だろうか。半ば当然のようにクレアはニコニコと微笑んで腕を組んできた。
香水なのか、甘美で蠱惑的な香りがボクの鼻孔をくすぐってくる。柔らかな胸の膨らみがボクの二の腕に押しつけられた。
「ちょッ、ちょっと待ってください」
思わずボクは腕を振りほどきそうになった。
「な、なによ。私じゃァ結婚相手に不服だっていうの」
「いえ、不服なんてワケじゃありませんけど……」
「私より美少女をお望みなの。どんだけ高望みなのよ?」
「いえいえ、高望みって事はないですけど……。だって名前も知らない彼女といきなり結婚なんてあり得ないでしょう」
素性のわからない令嬢と結婚なんて普通できるはずがない。
「ああァら、名前は龍宮寺クレアよ」
「リュ、龍宮寺……さんですか?」
なんて厳かな名前なんだ。どう見てもどこぞの高貴でやんごとなき一族のお嬢様だろう。
「フフゥン、クレアとお呼びなさい」
「ク、クレアさん?」
「ええェ、今朝タロット占いで結婚に最適な彼氏が現れると出たわ」
「タロット占いで結婚に?」
「そうよ。龍宮寺一族は、すべて占いの結果で結婚を決めるの」
クレアは当然とでも言うように微笑んだ。
「う、占いでってェ……?」
マジか。
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