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星野誠《まこと》
信じられないほど急な展開だ。
「ちょっと待ってくださいよ」
いくら何でも話しがおかしい。突然、結婚を申し込まれるなんて冗談にしても程がある。ボクは彼女の腕を振りほどいた。
ちょうどその時、講義室を出たところで友人の星野誠が飛んできた。
「おい、チン太郎。待てよォ。一緒に帰ろうぜ」
「えッ?」
振り返ると星野誠が親しげに肩を組んできた。
幼馴染みなのでヤケに人懐っこい。
「なんだ。星野誠か?」
今、大事なところなのに鬱陶しい友達だ。
「残念ね。チン太郎はこれから私と帰るところなの」
またクレアはボクと腕を組んで断言した。
「えェ、マジかよ。おいチン太郎。この可愛らしい子はなんだよ。親戚の子か?」
誠は苦笑いを浮かべクレアを指差した。
「いやァ親戚じゃないよ。彼女は?」
ひとことで説明するには厄介だ。
「フフ、私はクレアよ」
「え、クレアちゃん?」誠は目を丸くして彼女を見つめた。
「そうよ。今、チン太郎と結婚したの」
クレアは微笑んでボクの肩に頭を乗せた。まるで見せつけるようだ。
「な、結婚って。チン太郎と……?」
「いやァ、これはちょっと……」
ボクだって夢を見ているような気分だ。
「ま、待ってよ。クレアちゃん。マジでチン太郎と結婚する気なのか」
誠は信じられないという顔つきだ。
「いいえ、結婚をする気じゃないわ」
クレアは首を横に振って嘲るように微笑んだ。
「えェ?」
さっきと言っていることがまるっきり違っている。
「もうすでに二人は結婚したのよ。暇つぶしに!」
「な、なんですってェ、どんな暇つぶしですか?」
確かにさっき、『暇だなァ』とつぶやいたが。
「チン太郎を婿として龍宮寺家へ養子に迎えたの」
「マ、マジで、ボクは婿養子なんですか」
「そうよ。占いで出たんだから絶対なの」
「ヘェ、なんだよ。チン太郎ら『占い婚』かァ?」
星野誠は戯けたように肩をすくめた。
「いやいや、『占い婚』なんて知らないよ」
どんな結婚なんだ。
ボクの知らないうちに世間では『占い婚』が流行っているのだろうか。
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