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龍宮伝説
「チン太郎のことは心配なさらず」
クレアは笑顔で応対した。
「ハイ、よろしくお願いします」
両親はもろ手を上げて賛成のようだ。
けれどもボクは納得できない。
「そんなァ、どこの世界に、会ったその日に占いで結婚を決める人がいるんですか」
ボクの不満に、すかさず母親は眉をひそめ反論した。
「なに言ってるの。お相手は龍宮寺財閥のご令嬢なのよ」
「そうだぞ。口答えは許さんぞ。お前みたいに取り柄のないバカ息子を婿養子に迎えてくれるなんて夢のようだろう」
父親も嵩にかかった。
「そんなァ……」さんざんな言われ方だ。
「真太郎を引き取ってもらえるなんて利息を払ってでも差し上げたいくらいよ」
まるで母親はボクの事を粗大ゴミ扱いだ。
「ふざけた事を。どんな厄介払いだよ」
そんなに息子のボクが邪魔なのか。
「よろしくて、チン太郎!」
「いやいや真太郎ですよ。ボクの名前は」
「ひとたび、龍宮寺の門をくぐれば二度と下界には帰れないの。覚悟なさい」
「マジで……」
「ご存知かしら、『龍宮伝説』を?」
「ええェ、まァ知ってますよ。浦島って苗字ですからね。むかし浦島太郎が助けた亀に連れられて龍宮城へ行くって話しがでしょう」
幼稚園の時に習ったおとぎ話だ。
「そうよ。もし浦島太郎がお郷恋しやにならなかったら、ラストはどうなってたかしら?」
「そ、それは……」
確かに、浦島太郎は生まれた故郷が恋しくなり玉手箱を手に郷里へ帰ったことで悲劇が起こったのだ。郷里は数百年時が流れ、両親や友人縁者はすでに亡くなっていた。思い余って浦島太郎は乙姫から貰った玉手箱を開けると中から白い煙が立って、お爺さんになってしまったというおとぎ話だ。
もし浦島太郎が龍宮城にずっと住み続けていたら、別の最終章が待っていたかもしれない。
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