〈罪〉

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〈罪〉

 人生、楽勝だ。  胸を張り、笑みを浮かべて私は廊下を歩く。私に気付いた生徒たちは皆、猛獣にでも出くわしたかのように、目を伏せ顔を背ける。まるで逆だ、2年前までとは。それまではずっと、彼らが猛獣で、私はただの虫けらだった。そこにいるだけで、罵られ、踏み潰されるのが当然の存在。あの頃を思うと、今はまるで楽園にいるようだ。  2年前、私が中学3年の時だ。 「君も、いじめられているの?」  線路に飛び込もうとしていた私に、見知らぬ男が声をかけた。  男の視線の先は、出来たばかりの私の顔の痣だ。聞こえないふりをした私に、男は言った。 「君に力をあげる。僕にはもう使えないから」  言葉の意味を問う間もなく、彼の唇が私の口に押し当てられた。  どうやらそれが、力を渡すための儀式だったらしい。  私は手にしたのだ。その時から。この、素晴らしい力を。 『いじめる人間を殺す力』  それが、男が私に与えた力だ。この力によって私の人生は全く別物になった。ただの虫けらだった私が、猛獣すら倒せる力を手にしたのだ。  色々と試してみた結果、この力を使うには、いくつか条件があるらしい。 「いじめる人間」に、私が「直接」「死ねと言う」。そうすると、彼らは口から血を流し、数分で動かなくなる。録音した声を聞かせたり、電話で伝えても効果はなかった。私の声が直接、相手の耳に届かないとダメらしい。もちろん「いじめていない人間」に「死ね」と言っても何も起こらない。  それからもう1つ。  時々、条件を満たしていても死なない人間がいる。決まって中心で指令を下している奴らだ。おそらくこの力は、「いじめに関して直接手を下した人間」のみを殺すようになっているのだと、私は思う。だけど問題はない。そういう奴らも結局、手下がいなくなれば何も出来なくなるのだから。 「水谷をいじめると呪われる」  その噂はすぐに広まり、今では誰も私に近寄ってこない。親や教師ですら。ただ1人を除いては。  本当に、私の人生、楽勝だ。  もう私は、かつての私とは違う。どれほど踏みにじられても笑みを浮かべるしかなかった、あの頃の私とは。
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