〈罪〉

7/8
前へ
/9ページ
次へ
「可哀想に。青野さんはただ、ノートを忘れただけ。それなのにあなたに殺されるなんて」 「やめて…」  私は耳を塞ぐ。  これ以上何も言わないで。私を傷付けないで。私を、いじめないで。 「そうだ…」  先生は言った。この力が殺すのは、私が「いじめた」と信じる人間だと。  先生の手を、私は掴む。 『死んで先生!私をいじめるなら、死んで!』  真っ赤な血が、溢れ出していく。  私の口から。 「本当に困った子ね。何度も言ったでしょう。ちゃんと確認しなきゃって」  真っ暗になった世界に、先生の声が響く。 「真っ赤な嘘よ。その力が殺すのが『あなたがいじめたと信じる人間』なんて」  何を言っているのだろうか、先生は。 「これで証明されたわ。おそらく、あなたの力は人の『罪悪感』に反応している。あなたの言葉を聞いた人達の中で『理不尽かつ一方的に人を傷付けたという罪悪感』を抱える人間のみが、『いじめる人間』だと判断され、死へと導かれる。青野さんとあなたがそうなったのは、お互いに相手を傷付けたという罪悪感を抱いていたから。どう?当たっていると思わない?」  先生の声が、遠くなっていく。 「皮肉なものね。罪悪感を感じるような繊細な心の持ち主の方が、重い責を負う。だけど仕方ないわよね。そもそも世界は、そういう風に出来ているんだから」  寒い。凍えそうなほどに。 「残念ね。せっかくお友達が出来そうだったのに」  その時私は気付いた。私が本当に欲しかったもの。それは、こんな能力なんかじゃなく、友達だったのだという事に。  冷え切った頬を、温かい何かが伝っていく。 『水谷さん』  死んだはずの彼女が、私の名を呼んだ。 『ねえ、友達になってくれる?』
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加