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気がつけば朝だった。何時間寝たんだろう。なんだ、やっぱり何も起こらないじゃないかと部屋を見渡した。おかしなことは何もなかった。
仕事から帰り、部屋の鍵を開けた。居間に知らないおっさんが寝転がって漫画を読んでいる。床が見えないほど本が散乱していて、本棚はカラだった。
「あのー、どちら様でしょうか?」
僕はなんとか笑顔を作った。小さい頃から母によく言われていた。「得体の知れない者や、いるはずがないところにいる者に声をかけちゃダメ。見えないふりをするの。変質者だから」と。
でも、この状況では無視するわけにもいかなかった。塾のバイトで小学生の質問に答えられなかったときのような、逃げ出したい感じがしていた。
顔をこちらに向けることもなく本を見ながら、おっさんは言った。
「俺はここで殺されたんだ。お前、俺が見えるのか?」
僕は顎に手をやった。
「まさか、あなたは幽霊だとでも?」
「ああ、そうだ、幽霊だ」
僕は、こめかみをトントンと叩いた。幽霊なら少し透明だったり、足がなかったりするものだ。幽霊のわけがないと思った。
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