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「なんなんですか? いったい」
僕が声を荒らげると男はぼそりとつぶやいた。
「この部屋に忘れ物をしたんだ。でも、それが何か思い出せない」
その時、突然、押し入れで寝ていたおっさんが出てきた。
「何を騒いで……お、俺にも見えるぞ。男の幽霊だ。足がない」
おっさんはそう言うが、僕にはしっかり足も見えている。
「お前もいたのか。あっそうだ。思い出した」
と男がおっさんを見てつぶやいた。
「忘れ物を思い出した。天井裏に凶器と返り血を浴びた服を置いた。あとで金と一緒に回収しようと思っていた。
逃走中に車ごと崖下に落ちて……たとえ、死んだ後でも、あれが見つかって俺が犯人ってわかるのは嫌だ。あそこだ」
男は天井の隅を指差して、そう言った。
僕はテーブルを移動しようとすると、おっさんがテーブルの片方の端を持ち上げた。
「幽霊は見えるが、声は聞こえない。これを動かせって言ったのか?」
僕はおっさんに男が言ったことをそのまま伝えた。おっさんは満面の笑みを浮かべると僕をせかして、テーブルをその真下へと運んだ。
テーブルの上に乗り、言われた天井板を持ち上げてずらすと、そこだけ天井が外れた。
「お前は腕のいい大工だったから、金を隠すために細工したんだろう。お前を殺して放心状態で寝転がった時に、俺も大工だったから、その細工に気づいた。素人には絶対にわからない」
男がおっさんの顔を見てそう言った。おっさんは天井を見ているだけだった。
男に言われるまま、天井裏を覗くとビニール袋があった。それを取り出すと、奥には一万円札の束が無数に積み上げられているのが見えた。
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