事故物件

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「一万円札の札束がいっぱいありますよ」  僕の言葉に男が答えた。 「俺はもう死んじまったから、お金に未練はない。袋の方を」  とりあえず、僕はビニール袋だけを床の上に置いて開けた。中から黒く汚れた服と包丁が出てきた。血液が古くなって黒くなったのだろう。 「これをどこかに捨ててきてくれ。そしたら俺は成仏できる」  一瞬、躊躇したが、すぐに返事をした。こんなものが部屋にあるとわかれば、僕が疑われる。無防備に袋をあけ、指紋をつけてしまったからだ。  この男は、そこまで計算して袋をあけさせたのか。恨めしそうに男をにらんだ。  いやいや、恨めしがるのは幽霊の仕事だ。生きている僕が恨めしがったら負けだと、奥歯を噛み締める。  気を取り直して、みんなの顔をグルリと見て、僕は、にべもなく言った。 「じゃあ、さっそく、行ってきます」  僕は、袋を持ち上げて部屋を出た。爽やかに決まった!  僕は車のトランクに袋を入れると山に向かって走り出した。  しばらく走っていると、暗闇の中、目の前で突然、赤い光が点滅した。赤い光は左右へと揺れる。ゆっくり近づくとそれは棒状の懐中電灯のようなもので道路の端へと誘導された。  僕の車のヘッドライトに照らされたのは警官だった。  運転席に近づいてくる。僕は窓を開けた。 「すみません。飲酒運転の取り締まりです。私の鼻に息を吹きかけてください」  酒など飲んでいない僕は、躊躇(ちゅうちょ)なく息を吹きかけた。早く立ち去りたい。トランクに気づかれたらやばすぎる。
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