事故物件

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 パトカーの運転席と助手席のドアが開き、降りてきた二人の警官が、道路側に立つ警官に向かって敬礼をした。警官も敬礼を返した。  少し長い敬礼の後で、パトカーを運転していた警官が声をかけてきた。 「故障ですか?」  言われた意味がわからず立ち尽くしていた。 すると、助手席から降りた警官が、ほほ笑んだ。 「先ほどの敬礼で驚かせてしまいましたね。実は、ここで検問中に車にはねられて殉職した同僚の月命日(つきめいにち)に来たんですよ」  さっきの警官を見ると、彼はきつい目をして僕を見た。僕のこめかみからヒヤリと冷や汗が出る。 「故障とかではないのですね」  運転席から降りた警官の言葉に、あわてて、「いえ、大丈夫です」と答えた。 「では、お気をつけて」  助手席側の警官がそう言うと二人は、再びパトカーに乗り、走り去った。僕を止めた警官は、恨めしそうにパトカーを見送ると、一転、しょぼんと肩を落とした。  そして、みるみる間に消えてしまった。  僕はため息をつき、車を走らせると、人気(ひとけ)のない山奥に袋を埋めた。 「ありがとう。これで成仏できる」  振り返ると男がいた。 「神出鬼没。どこでも現れるのですね」  僕は男をじろっと見ると肩をすくめた。 「私は本物の幽霊なので」   「私は本物の?」  僕はそう聞き返したが、男は消えてしまった。    再び車を走らせ、家に帰った。  アパートの鍵を開けようとしたが、鍵はかかっていなかった。
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